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〈連載〉母から娘へ渡されたバトン。日本生まれのファッションブランドの意識改革

2023.09.12

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デカマリと素敵な仲間の45年 私たちのニッポンファッション革命Vol.22 人生をアートする、女性経営者・母娘対談(其の1)

デカマリと素敵な仲間の45年
私たちのニッポンファッション革命

天然素材を美しい色合いに染め上げた着心地のよい服で愛されるブランド「ヤッコマリカルド」を中心に、さまざまな事業を手がけている「ワイエムファッション研究所」。渡邊万里子会長は80代の今も、感度の高い発信を続ける“ファッションビジネス界のレジェンド”と呼ばれる存在です。日本発のお洒落を元気づけてきたエピソードを伺ってきた連載も残すところあと2回。万里子の娘であり、社業を継いだ新社長、青との「未来に向けた対談」をお届けします。


Vol.22 人生をアートする、女性経営者・母娘対談(其の1)

ワイエムファッション研究所は2021年に万里子から娘の青へと社長交代し、新体制へ。“丁寧なものづくり”を踏襲しながら、eコマース対応のサイズの再構築や、ピンタックをはじめとした“ブランドの個性”の認知を新しい形で広めています。

万里子(右)と青。

万里子(左)と青。

万里子(以下M) 私もリカルドも家業を子どもたちに継いでほしいという意識は持っていなかったので、10年前に青からロンドンの会社を統合して帰国すると言われたときにはとても驚きました。21歳で決意して日本を離れた青は、ロンドンの難関RCAを卒業した後、異国文化の中で努力を重ねて。アーティストたちとのネットワークを駆使してセレクトショップの買い付けや、ファッション情報の発信など新しいことを成功させていたので、本人の道を究めていくのだと思っていました。そのキャリアがありながらワイエムファッションのために戻ると聞いて嬉しかったです。日本ならではのビジネス文化や言葉づかい、さまざまな面でゼロからのスタートになりましたよね。


青(以下S) ファッションを仕事としていくにあたり、今一度、きちんと服に向き合っておかねばと思ったのです。帰国してヤッコマリカルドの服作りの現場に関わり、把握しなければと。「母たちの服作りは、なんて手のかかる、世界一面倒な工程を踏んでいるんだ!」とあらためて思いましたね(笑)。


──服に縫い上げた後で染める、という“製品染め”ゆえに手がかかるのですよね。染めによって布地が縮むことを計算して、布地も一般的な製法の服よりも3倍ほどをたっぷり用いているとか。だから唯一無二のふんわりとした肌触りのよさも叶えています。


S
 たっぷりの大きさのものを、染めて洗いをかけて縮絨させているので、ふわりと柔らかな着心地となるのですが、染め方だけでなく、ピンタックを多用していることでも布量がかなり必要となります。とても贅沢な作り方です。多くの人の“手”による作り方だと知ってはいたものの、コストに影響するのは当たり前だと納得しました。


 “布を造りかえる、アートする、遊ぶ、楽しむ”という思いだったのです。難しい工程も楽しみながら乗り越える、結果としてブランド価値を構築できました。


ルーティン化しがちな発想を見直す


 一方で、デザインチーム内で「ヤッコマリカルドの服は大きくあらねば」という思い込みも生じていて、そのボリュームにとらわれている部分もあったのではないか、とも感じたのです。もちろん、オフボディを特徴としているので大きく作る必要はあったでしょう。ですが、私はスタッフに「“デザインコンセプトありき”で、その都度心地よいフィット感を決めてほしい」、「たとえば身体が泳ぐほどのオフボディではなく、今回はルーズフィットで、という提案をデザイナー側からしてもよい」と伝えました。時代をブランドとしてどうとらえるか、それでルーズフィットを提案するのであれば、通常より用いる布地が少なくても全然構わないのです。賢くクリエイトするデザインチームであることが大切なんだ、と。


 デザイナーもパタンナーも、在籍20年を越えるようなつわもの揃い。ブランドのパターンに真面目に取り組み、売り場スタッフを通して、顧客の方々のお声を共有することにも熱心です。


 マーケットからの要望など、“売れるもの”についての話はわかるのですが、MD責任者と私と“ブレない2人”がしっかり聞いた上で企画プランを出すので、デザインチームは2人を信じて理解してほしい。ワードローブにあってもいいな、ではなく、「着たい!」と思わせるデザイン意欲に徹してほしいのです。売れそうな要素の寄せ集めではなくて、1着ずつにクリエイティブがあり、想いが伝わる服。そうでなければ、鮮度がなくなります。売れ行きについてはMDが試算し、型数のコントロールでバランスをとるほうがよい結果を導けます。


 新社長は芸術大学で学び、自身が乗り越えてきたので、クリエイターたちが切磋琢磨する厳しい環境を理解していますよね。デザインしたその価値を売ることがどれだけ大変かもわかっています。


コレクション撮影中の青。ロンドンから帰国して1年くらいの頃。幼少時から姉のように可愛がってくれる存在だったヤッコに弟子入りし修行を重ねた。

コレクション撮影中の青。ロンドンから帰国して1年くらいの頃。幼少時から姉のように可愛がってくれる存在だったヤッコに弟子入りし修行を重ねた。

感性を磨く“インプットの日”


──青社長が就任したのはちょうどコロナ禍でもあり、告知やお披露目もなく、いきなり実務すべての責任を担われました。世の中全体にリモート勤務が余儀なくされたタイミングに重なっていましたよね。

 実は、コロナ禍が収まったあとも、企画チームには週に1度は在宅勤務を許可しています。在宅といえども「家にいなくてよい」、「どこにいるかも一切報告しなくてよい」と言ってあるんです。たとえば、デザイナーならば、絵や映画を見に行く日にしてくれてОK。何をしたかのリポートも不要です。別にお散歩するだけでも、綺麗な落ち葉にインスパイアされるかもしれないし、どこかに行かねば、と義務感で行動しなくてもよいのです。ただ、やっぱり会社の仕事を家に持ち帰って追われている者も現状まだ多いでしょう。でも“報告不要の日”としたからには、「どこか行った?」とは聞かず、じっと我慢(笑)。インスピレーション源をそれぞれに得てほしいな、と願うばかりです。


──メセナ活動をされていたこともあり、万里子会長は歌舞伎に足しげく通われていますね。

M 衣装の美しさや、舞台美術の斬新さなど、刺激を受けることがたくさんあります。自分が直接着ることのないようなもの、遠い世界のことからもヒントを得られて面白いですね。


Perspective of Cubismがテーマの2023秋冬コレクション。服だけに留まらぬトータル表現が話題に。

Perspective of Cubismがテーマの2023秋冬コレクション。服だけに留まらぬトータル表現が話題に。


隣人の装いに関心をもつことの大切さ


──多様性の時代といわれ、自分とは異なる趣味や考えの人を受容していこうとする文化が広がっています。

 ファッションに携わる者には、人の装いに関心をもち、それをコミュニケーションし合えるスキル──、たとえば「きょうのシャツの色、とても似合ってるね」と伝える意識が常に必要だと思います。自分の好みとは全く違う着方だとしても、興味をもつ。相手のスタイルやバックグラウンドを想像し、理解する力をもっていないと、人さまに着てもらう服は作れない。まずは身近な人の装いに関心をもって、褒めることを習慣化していけるとよいですよね。私なんて、ツッコミどころの多い着方をしていることが多いので、上下関係なく、お洒落の感想を伝える練習台にしてくれれば、と社員に対して思っています。


 「あら、また髪色変えたの? 秋の服の色が映えるわね!」といったふうに? 


──青社長のスタイルは、まさにカンバセーションピースの宝庫。ヤッコマリカルドの服を、顧客の方々とはまたひと味違った着こなしをされていて、そのテクニックから会話がどんどん弾むところがありますよね。

さて、次回も母娘対談の続きをお届けします。世界に通用するコミュニケーション法、女性ばかりの組織ならではの配慮や、今後の展望など盛りだくさんで伺います。お楽しみに!


ヤッコマリカルド公式オンラインショップ

E-mail onlineshop@ym-fashion.co.jp

“今”を自由に生きる人が、その個性を素敵に輝かせられるように。1977年創立の「ヤッコマリカルド」は心地よく着られる天然素材にこだわり、絶妙な美しい色合いの染めはもちろん、こまやかなピンタックなどの手仕事を軸とした丁寧なものづくりをしています。装う人の年齢を超越するような、リラックス感を伴ったモードスタイルに出会えます。

URL:https://www.yaccomaricard-online.jp/


渡邊万里子(わたなべ まりこ)

「ワイエムファッション研究所」会長。「ヤッコマリカルド」では、ヨーロッパはロンドンを拠点に、アジアではタイ国内に15店舗、中東のクウェート、アメリカはニューヨークと、国外にも商品を展開。タイの自社工場を中心に海外にもインドなど協力工場を複数持ち、グローバルに活躍している。1938年(昭和13)北海道小樽市生まれ。84歳の今も元気に、プライベートな時間にはインナーマッスルのトレーニングジムへ通う。“発想のスケールが大きなマリ”という意味でいつしかニックネームは「デカマリ」に。明るく豪胆な人柄を慕うファン層が、業界や年代を超えて広がっている。

公式Instagram:@dekamari_ymfashion

写真提供/ワイエムファッション研究所 取材・原稿/大杉美氣

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