クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第17回 シューベルト 歌曲集『美しき水車小屋の娘』
イラスト/なめきみほ
夭折の天才歌手ヴンダーリヒのラスト・レコーディング
今日9月17日は、20世紀ドイツを代表するテノール歌手フリッツ・ヴンダーリヒ(1930~66)の命日です。
音楽家の両親のもとに生まれたヴンダーリヒは、天性の美声と音楽的才能によって周囲の人々を魅了。1954年、フライブルク音楽大学でのモーツァルト『魔笛』のタミーノ役をきっかけに、翌年シュトゥットガルト州立歌劇場と契約。その後も世界中の歌劇場を舞台に順風満帆な活動を行っていた彼の身に突然の悲劇が訪れたのは、1966年9月16日のことでした。
友人の別荘の階段から転落して頭蓋骨を骨折したヴンダーリヒは、翌17日に、36歳の若さでこの世を去ってしまったのです。折しも、得意としていたシューベルトの歌曲集『美しき水車小屋の娘』のアルバム発売直前の悲劇でした。『冬の旅』『白鳥の歌』とともに、“シューベルトの三大歌曲集”の1つに数えられる『美しき水車小屋の娘』の録音は、夭折の天才歌手ヴンダーリヒがこの世に残した最後の歌唱として、永遠に語り継がれる名盤です。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。