〔特集〕【吉永小百合×大泉 洋 特別対談】愛するお母さんたちへ(後編) 2023年9月1日公開の山田洋次監督最新作『こんにちは、母さん』で初共演を果たした吉永小百合さんと大泉 洋さん。ときにぶつかりながらも、互いを思い、支え合う母と息子を演じたおふたりが、親子の絆や「いかに生きるか」について率直に語り合ってくださいました。実のお母さまとのエピソードも披露してくださった、貴重な対談をお届けします。
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新作映画『こんにちは、母さん』で初共演
「連絡先を教えてくださいとお願いしたら、くださったメモに『母より』と書いてあって。妻に見せたら、感激して家に保管しています」と話す大泉さん。吉永さんご夫妻と大泉さんご夫妻の4人で食事をするプランもあるのだとか。「勇気を出してお誘いします」という大泉さんに、「ぜひ!」と吉永さん。
吉永小百合さん(よしなが・さゆり)東京都生まれ。1959年『朝を呼ぶ口笛』で映画デビュー。以来、『おはん』『北の零年』『いのちの停車場』など数々の名作に出演し、多くの主演女優賞に輝く。『ふしぎな岬の物語』では初めてプロデューサーも務めた。『こんにちは、母さん』は123本目の出演映画で、山田洋次監督とのタッグから生まれた『母べえ』『母と暮せば』に続く、「母」3部作の集大成。
大泉 洋さん(おおいずみ・よう)1973年北海道生まれ。演劇ユニット「TEAM NACS」メンバー。北海道テレビ制作のバラエティ番組『水曜どうでしょう』で人気を博す。映画『探偵はBARにいる』『駆込み女と駆出し男』『探偵はBARにいる3』『月の満ち欠け』で日本アカデミー賞優秀主演男優賞を受賞。『鎌倉殿の13人』や『ラストマン─全盲の捜査官─』など、話題のテレビドラマにも次々出演。
映画で演じた福江同様アクティブで、旅行やスポーツが大好きという吉永さん。40代で一から習い始めた水泳は、現在もずっと続けており、バタフライもお手のものだそう。ブラウス、スカート/ジョルジオ アルマーニ(ジョルジオ アルマーニ ジャパン) イヤリング、ネックレス/ミキモト(ミキモト カスタマーズ・サービスセンター)
関係性は変わっても、親子の絆は永遠
吉永 私は28歳で結婚するまでは、親のいうことをなんでも聞く、いい娘だったんですね。でも、あるとき突然、「ここにいたらダメになる。人間らしく生きたい」と強く思って。家出するような感じで、結婚したんです。
大泉 知りませんでした。
吉永 その後しばらく、疎遠とまではいかないけれど、母とあまり会わないでいたんです。でも、お互いに年を取ってくると、「やっぱり親子なんだから、大事にしなきゃ」と思うようになって。一人暮らしをしていた母が他界するまでの2か月ほどは、姉と妹と交代で泊まり込んで、介護というほどではありませんが、一緒にいろいろなことをしました。
大泉 そうでしたか。
「人生の長い道程では、親子の関係にもいろいろな時期がありますね」─ 吉永さん
吉永 車椅子から下ろすにはどうしたらいいかといったことも、何も知らなかったから、母とふたりで抱き合ったまま転んじゃったりして。母は背が高くて、やや太り気味の大きな人だったから、大変でした(笑)。そのときは、介護のことをちゃんと学んでおけばよかったと思いました。それでも母は喜んでくれたと思うし、そういう時間を持ててよかったと心から思います。人生の長い道程では、親子の関係にもいろいろな時期がありますよね。
吉永さんの息子役が決まった際、「母は『はぁ~、あんたが!』と驚いてました」と楽しそうに話す大泉さん。月に2回ほど仕事で故郷に帰るときは、必ず実家に顔を出す親孝行息子だ。ジャケット31万9000円 ニット12万9800円 パンツ19万5800円/すべてジョルジオ アルマーニ(ジョルジオ アルマーニジャパン) 靴/スタイリスト私物
「両親には『今度は僕があなたたちを守っていくから』と話しています」─ 大泉さん
大泉 本当ですね。うちの両親はまだ元気でいてくれているので、ほとんど何もしていませんが、健康のことはやはり気になるんですよね。それで僕、少し高額な健康器具を贈ったんです。
吉永 優しい息子さんですね。
大泉 でも、なかなか使ってくれないので、この前、「ここまで育ててくれて、とても感謝している。今度は僕が恩返しで、あなたたちを守っていくから、いうことを聞いて健康器具を使ってくれ」と説教しました。母はわかったといってましたが、最近はすぐ忘れちゃう。祖母が認知症だったので、そういうのはある程度慣れているのですが、イライラせずに何回もいうしかないですよね。あとは、大事なことは紙に書き留めるようにいっています。
吉永 私自身は経験がないんですが、友達が家族の認知症でとても苦労していて、本当に大変だと感じています。せめて自分自身はなるべくならないように、健康に気をつけていきたいと思っています。もし、なってしまったら、サポートしてくださるかたに委ねるしかないけれど、世の中のみんながそういうかたたちを受け止めてあげることが大事だと思いますね。
生きていくうえで大切にしていること
大泉 最近思うんですが、幸せって、自分がそう思えるかどうかで決まるわけじゃないですか? そのために大事なことは、人と比べず、何が起きても腐らず、前向きに生きていくことかなと考えています。
吉永 私は今日を一生懸命生きれば明日につながると信じているんですね。では、自分にとって、一生懸命生きるとはどういうことかと考えると、仕事を一生懸命するといったことではなくて、自分が生き生きとしていられることに力を注ぐことなんです。それが幸せにつながる。
大泉 そうですよね。先を考えすぎたり、過去にしばられないで、その瞬間に意識を向けるのが大事だと聞きます。僕自身は先のことを考えて、思い悩んでしまいますけど。
吉永 若い頃は私もなかなか今日に集中する生き方ができませんでした。自分が自分の生き方にも仕事にも責任を持つと決意したことで、考え方も生活も変わりました。
大泉 素晴らしいですね。僕はあと、月並みですけど、感謝できる人でいたいと思っています。賢い人というのは、いろんなことに気づいて感謝できる人だと僕は思うんです。あまり頭のよくない人は、「全部自分がやりました」って顔をする。そうなっちゃいけないなと思うんですね。
吉永 おっしゃるとおりですね。誰も一人で生きているわけではないから、自分を支えてくれる人に感謝して、大事にしていかないといけませんよね。間違えないよう、肝に銘じます。
大泉 僕なんて間違いだらけです。今日はまず、吉永さんと両親に感謝を捧げたいと思います。
『こんにちは、母さん』とは──
母と子の新たな出発の物語
山田洋次監督の最新作『こんにちは、母さん』は、家族の絆とは、互いの変化を受け入れ、関係性を柔軟に変えていくことでこそ、幸せに保たれることを教えてくれます。人は誰でも、母、妻、娘、社会人など、さまざまな顔(役割)を演じ分けながら生きているもの。映画のなかで息子は最初、恋をしている母親に抵抗を覚えますが、やがてありのままを受け入れたことで、ふたりにとって少しだけ新しく、心地よい関係性が生まれます。
人生百年時代の今、家族との関係もロングランになりました。過去の関係性や、こうあるべきといった理想や思い込みに縛られず、福江や昭夫、舞のように、今の自分と相手を認め、笑って過ごせたら、それが一番なのではないでしょうか。
名匠・山田洋次監督 90本目の作品 隅田川沿いでの撮影中、カメラをのぞき込む山田監督、御年91歳。
クランクアップ時に山田洋次監督とともに記念撮影をする吉永さんと大泉さん。バックは福江が営む足袋店。
『こんにちは、母さん』大会社の人事部長として、離婚問題を抱える夫として、大学生の娘・舞(永野芽郁)との関係に悩む父として、日々神経をすり減らしている神崎昭夫(大泉 洋)。久々に訪ねた実家で、これまでと違う母・福江(吉永小百合)に戸惑うが、新たな母を受け入れることで、自分自身の生きる道も見出していく。
●監督/山田洋次 脚本/山田洋次、朝原雄三 原作/永井愛 出演/吉永小百合、大泉 洋、永野芽郁ほか 全国公開中 110分
公式サイトはこちら>>©2023「こんにちは、母さん」製作委員会