クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第24回 サミュエル・バーバー『弦楽のためのアダージョ』
イラスト/なめきみほ
葬儀用の定番曲とされることに憤るバーバーの名旋律
今日9月24日は、20世紀アメリカを代表する作曲家、サミュエル・バーバー(1910~81)の「ピアノ協奏曲」初演日です。
楽譜出版社シャーマーの創立100周年記念作品として委嘱されたこの曲は、初演予定者ジョン・ブラウニングの鍵盤技巧を念頭において作曲されました。しかし1962年9月24日に行われた初演において、ブラウニングはフィナーレを指示通りのテンポで演奏できず、さらには当代一の名手ウラディミール・ホロヴィッツまでもがテンポ通りに演奏できなかったのを知ったバーバーが、遂にフィナーレのピアノパートを改定したといういわく付きの作品です。
そのバーバーの代表作が『弦楽のためのアダージョ』です。こちらは自身が作曲した弦楽四重奏曲の第2楽章を弦楽アンサンブル用に編曲した作品で、J・F・ケネディの葬儀で使われて一躍有名になった名曲です。その後も葬儀や訃報の定番となったことについて、バーバーは「葬式のために作った曲ではない」と憤っていたのだとか。世の中思うようにはいかないものです。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。