クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第28回 ベートーヴェン『英国国歌による7つの変奏曲』
イラスト/なめきみほ
即興演奏の名手ベートーヴェンの真骨頂
今日9月28日は、英国国歌『国王(女王)陛下万歳』が初めて演奏された日です。
多くの英連邦王およびイギリス王室属領で現在も使用されているアンセム(賛歌)であるこの曲の歴史を紐解くと、1745年9月28日に、ドルリー・レーン王立劇場において行われたベン・ジョンソンの喜劇『錬金術師』終演後に公式に演奏されたことにより、以後ロンドン各地の劇場で演奏されるようになって爆発的に広まったのだとか。
さて、そこに登場したのが即興演奏の名手ベートーヴェン(1770~1827)。彼が1803年に、イギリスの歌『ゴッド・セイヴ・ザ・キング(神よ、王を助けたまえ)』による変奏曲を作曲したきっかけとなったのが、スコットランド人官吏にして楽譜商を営み、イギリス民謡を収集・出版したジョージ・トムソンからの依頼でした。
その生涯に20曲以上の変奏曲を手がけているベートーヴェンだけにその仕上がりは完璧。これはまさに、変奏曲が即興演奏の延長線上にあることを認識する名曲といえそうです。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。