これぞジュエリーの真髄 第10回(01) ダイヤモンドの世界 有川一三氏が主宰する「アルビオンアート」の歴史的な芸術品の数々を、宝石史研究家の山口 遼さんの解説でご紹介するジュエリー連載。第10回は、ダイヤモンドの歴史と輝きの変遷について紐解きます。
連載一覧はこちら>> ブリリアントカット以前のおおらかな輝き
紀元前から1720年頃まで、世界でダイヤモンドを産出するのはインドだけでした。しかもその集め方は漂砂鉱床といい、ダイヤモンドを含む山が豪雨や地震などで崩れ落ち、麓にある川の流域にばらまかれたものを拾い集めるという原始的なもの。産出量はおそらく1万カラットもなかったと思います。
1720年代になると、ブラジルの一部でダイヤモンド鉱山が見つかります。これは拾い集めるのではなく鉱山を掘り進める方式でしたが、年産はまだ30万カラット程度。1860年代には南アフリカ一帯で鉱山が見つかり、年産300万カラット以上に増えます。
その後アフリカ各地、オーストラリア、ロシア、カナダと相次いで鉱山が発見され、今では原石の年産量は1億カラットを超えています。
西欧にダイヤモンドが現れるのはローマ時代ですが、遠路はるばるインドから運ばれるほど珍重された理由は、石の異様なまでの硬さでした。青銅でも鉄でも切れてしまう、この硬い石には人の知らない魔力があると人々は思ったのです。
やがて研磨すると輝いたり光線が見え、美しいものだと認識されるようになります。ダイヤモンドを研磨できるのはダイヤモンドしかありませんが、インド人はこれで貴重なダイヤモンドが減ることを嫌いました。
初期のダイヤモンドカットは、いかに重量を減らさずに美しさを出すかに重点を置いたもので、カットというよりも形を整え、表面を磨くという感じです。
1.[ルネサンス]ポイントカット・ダイヤモンドリング
製作年代:16世紀
製作国:未詳
2.[ルネサンス]ポイントカット・ダイヤモンドリング
製作年代:1610年頃
製作国:未詳
最も古いポイントカット1と2は、正八面体の原石の上の表面だけを削っています。おそらくインドでカットされ、欧州に伝わり、一種の護符として使われたものでしょう。極めて希少で、2つもあるのは素晴らしい。
3.[ルネサンス]テーブルカット・ダイヤモンドリング
製作年代:1610年
製作国:未詳
ポイントカットのとがった部分を真横にカットしたのがテーブルカットで、3は最初から平面状に割れていたものを磨いたもの。大きく見え、平面から出る反射光が特徴です。
4.[バロック]テーブルカット・ロゼンジリング
製作年代:1640年頃
製作国:未詳
5.テーブルカット・ダイヤモンド セブンストーンリング
製作年代:17世紀後期
製作国:未詳
6.テーブルカット・ダイヤモンド クロスペンダント
製製作年代:17世紀
製作国:スペイン
テーブルカットの石を7個並べたリング4と5も、ルネサンス末期のスペインで作られた十字架のペンダント6も見事なテーブルカット。
この時代になると欧州の各地で研磨が始まります。パリ、アントワープ、ヴェニス、それぞれ自分たちが最初だと主張していますが、真偽はわかりません。
7.ダイヤモンド フラワーブローチ
製作年代:1740年頃
製作国:イギリス(推定)
さまざまなカットのダイヤモンドで花をデザインしたブローチ7は、なんとも愛嬌があります。
カットの名前も勝手に付けられてあまり意味がありませんが、唯一、今日まで残っている古いカットがローズカットです。これはお饅頭を想像してください。下が平らで上に丸く盛り上がった面に、小さな平面のカットを沢山つけたものです。
8.ローズカット・ダイヤモンド クロスペンダント
製作年代:18世紀
製作国:未詳
8はその典型的な作品で、ゆったりとおおらかな輝きです。
この時代、ダイヤモンドの多くは銀の台座にセットされました。金の色がダイヤモンドに映るのを嫌ったためです。やがてブリリアントカットの時代が到来すると、ダイヤモンドの輝きはずいぶん変わります。(第10回(02)に続く)。
※記事の写真は、下のフォトギャラリーからもご覧いただけます。