個性的な図書館で働く人々と本好きにはたまらない“まかない”
作家が遺した蔵書のみを収蔵する、私立図書館。開館時間は、夜7時から12時まで。そんな図書館があったら、通わずにはいられないだろう。本書は、そんな図書館が舞台だ。
「この小説は、まず、夜だけ開いている図書館という設定を思いつき、そこでひっそりと働いている人たち、というイメージから構想し始めました。そんな図書館はやはり、普通ではありませんよね。そこで、亡くなった作家の蔵書を収蔵する図書館にしたらどうかと思いつきました」
原田さん自身も、子どもの頃から図書館によく通っていたという。
「初めて図書館に行った日は強烈でした。“こんなにたくさんの本がただで読めるなんて”と、ものすごく驚きました。以来、大学に入学する頃まで近所の公立図書館に毎週のように通いました。大学も国文科でしたので、作家や歴史上の人物を研究する際に図書館は欠かせませんでした。研究対象となる人の著作や研究書などを読むことは当然ですが、その作家が何を読んでいたかが詳細にわかると大きな収穫になるだろう、とも考えていましたね。また、司馬遼太郎記念館で司馬先生の大量の蔵書を見たときのことも念頭にありました」
2階の一角には「図書館カフェ」があり、図書館員にはまかないが振舞われる。それが毎食、“しろばんばのカレー”や“「ままや」の人参ご飯”など、小説に登場した料理や、作家が紹介したレシピによるものなのだ。それらが章のタイトルにもなっている。
「この図書館で出される料理はやはり、小説にかかわるものではないか、と考えました。私もそうですが、『家庭画報』の読者の皆さんのなかには、『赤毛のアン』や『大草原の小さな家』に登場する料理に憧れたり、それらにちなんだ料理本や、小説家によるレシピ集に親しんだりしたかたも多いのでは? そんなことを懐かしく思い出しながら、少女の頃に戻って、実際に料理していただければと思います。本作にも登場しますが、『アンの青春』のなかでアンとダイアナが焦がしてしまった“チョコレートキャラメル”は、昔と違ってデジタルのキッチンスケールとテフロン加工の鍋があれば簡単にできるので、おすすめです」
巻末には、まかないの料理が実際に登場する小説やレシピ集が参考図書として掲載されている。それらを読んだり、実際に作ってみたりするのも楽しそうだ。また、自分の思い出のなかにある“あの小説のあの料理”を再読してみたくなるかもしれない。
不思議な図書館で働く優しい人々の物語が、私たちの日々の生活に新しい風を吹き込み、読書体験を広げてくれるだろう。
『図書館のお夜食』
原田ひ香 著 ポプラ社 1760円
地方の書店員だった主人公の樋口乙葉が、知らない人からのメールである図書館に勤務しないかと誘いを受ける。風変わりな図書館の仕事に慣れ、ちょっとした事件を解決するうちに、この図書館の謎めいたオーナーの正体や、どのように運営されているのかなどが明かされていく。装画/花松あゆみ 装丁/須田杏菜
原田ひ香(はらだ・ひか)
1970年神奈川県生まれ。2005年『リトルプリンセス2号』で第34回NHK 創作ラジオドラマ大賞受賞。2007年『はじまらないティータイム』で第31回すばる文学賞受賞。宮崎本大賞を受賞した『三千円の使いかた』(中公文庫)、『一橋桐子(76)の犯罪日記』(徳間文庫)はともにテレビドラマ化され、ベストセラーに。撮影/喜多剛士
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