クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第34回 ブラームス『ピアノ協奏曲第1番』
イラスト/なめきみほ
「安心してください、グールド氏はちゃんと来ます」
今日10月4日は、カナダのピアニスト、グレン・グールド(1932~82)の命日です。
その奇癖と天才的な演奏によって、数々の伝説を生み出したグールドの人生の中でも、極めつきに楽しい逸話が、レナード・バーンスタイン(1918~90)率いるニューヨーク・フィルハーモニックと共演したブラームスのピアノ協奏曲第1番での出来事です。
時は1963年2月2日、ニューヨークのカーネギーホール。コンサート直前のステージに登場したバーンスタインは、冒頭の言葉に続いて、指揮者である自分とソリストであるグールドの演奏解釈が違うことを語りだしたのです。もちろん単なる言い訳などではなく、トークそのものがエンターテインメントであることがすごい。
「協奏曲にあっては誰がボスなのか?(笑い声) 独奏者なのか、それとも指揮者なのか(さらなる笑い声)」という問いかけのあとに、グールドの解釈で演奏された音楽は今や伝説。一期一会のトークと演奏は、ライブ録音のおかげで今も聴くことができるのです。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。