がんまるごと大百科 第10回【がん遺伝子検査編】(01) 薬物療法に付随して、採取したがん細胞の遺伝子異常を調べるがん遺伝子検査が行われるようになっています。がん遺伝子検査の種類や意義などについて、国立がん研究センター 中央病院 先端医療科 科長の山本 昇先生に伺います。
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がんのタイプに合う薬を選ぶためのがん遺伝子検査
山本 昇(やまもと・のぼる)先生 国立がん研究センター 中央病院 副院長 先端医療科 科長。1991年広島大学医学部卒業。1995年国立がんセンター(現・国立がん研究センター)中央病院に入職。2011年に同病院呼吸器内科・病棟医長となり、2013年から先端医療科 科長、2019年から副院長・臨床研究支援部門長、2023年から臨床開発推進部門長。
がんは遺伝子と深く関係している
がんは遺伝子に傷がつき、それが修復されないうちに蓄積していって、遺伝子異常を起こした細胞が増えている状態です。通常、遺伝子が異常になったがん細胞は免疫が排除しますが、それがうまくいかなくなると増殖して健康を脅かす存在になります。
ほとんどのがんの遺伝子異常は生まれた後に生じるもので、がんに関連する遺伝子異常はがん細胞だけにみられます。
「がんになる可能性のある遺伝子は誰もが持っています。それが何らかのきっかけで傷つくことが、がんにつながります。このようながんは遺伝することはありません」
一方、生まれ持った細胞(生殖細胞)にがんになりやすい性質を持つ遺伝子異常があり、それによってがんができる場合もあります(次ページで解説)。
遺伝子異常を調べて薬との相性を探る
同じ部位の同じステージ(進行期)のがんの患者であっても、手術や生検で採取したがんの組織を病理検査や遺伝子検査で調べると、性質が異なる場合がよくあります。例えば、乳がんは、がん細胞の表面の女性ホルモンの受容体の有無、HER2という受容体の有無などによって5つのサブタイプに分類され、別の薬が使われます。
このように、薬物療法では、がんの性質やそれをもたらす遺伝子異常の違いを調べたうえで、より効果の高い薬を選ぶようになってきています。「遺伝子異常を調べるがん遺伝子検査はいわば“治療選択の道しるべ”となります。このような遺伝子の違いを考慮する医療をがんゲノム医療と呼んでいます。ゲノムとは遺伝子を含む遺伝情報全体を指す言葉で、遺伝子(gene)と全体(ome)を合わせた造語です」。
このがんの遺伝子検査には2つのタイプがあります。
ある遺伝子異常に効く薬について、それが使えるかどうかを調べる「単一遺伝子検査(コンパニオン診断)」と、がんに関連する遺伝子異常を包括的に調べる「がん遺伝子パネル検査」です。
前者は薬の適応の有無を決めるための検査であり、「ある遺伝子異常に対する既存の薬が使える切符を買えるかどうかを調べるようなものです」。
後者で調べる遺伝子異常には対応する薬がないものもあり、もし対応する薬がある遺伝子異常が見つかれば、その薬を第1選択薬として使います。
がんの遺伝子検査の種類
検査の目的と調べる遺伝子の数で2タイプに大別される *上記2つの中間的な性質を持つ、特定の数種類の薬に対する適応を調べるコンパニオンパネル検査もある。
個別化した薬物療法の鍵となるがん遺伝子検査
(1)がん遺伝子検査の目的がんのタイプに合う薬を選択→薬物療法が主たる治療となる進行がんの患者や、手術や放射線療法と薬物療法を併用する早期がんの患者が対象で、患者一人一人のがんに合わせた薬を選ぶために実施される。
(2)がん遺伝子検査の種類
単一遺伝子検査とがん遺伝子パネル検査がある→がんの種類、ステージ(進行期)などによって2つの検査が使い分けられる。
(3)がん遺伝子検査から治療まで
検査結果が出るまでには時間がかかる→遺伝子検査の結果を受けて治療が開始されるまでには1か月以上かかる。進行がんの場合にはできるだけ早い段階で検査を受けることが重要。