〔連載〕天野惠子先生のすこやか女性外来 日本人女性の実に2人に1人が90歳まで生きる時代になりました。長く生きることは当然、加齢にともなう病気のリスクが増えることを意味します。中でも歩行や移動を支える膝などの関節の疾患予防は、健康寿命を延ばす大事な要。最近行われた大規模調査の結果をもとに、関節症の性差とリスクについて教わります。
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関節の健康を保ち、高齢になっても動ける体を
女性に多く、加齢とともに増える膝や手・指の関節症
天野惠子先生(あまの・けいこ) 静風荘病院特別顧問、日本性差医学・医療学会理事、NPO法人性差医療情報ネットワーク理事長。1942年生まれ。1967年東京大学医学部卒業。専門は循環器内科。東京大学講師、東京水産大学(現・東京海洋大学)教授を経て、2002年千葉県立東金病院副院長兼千葉県衛生研究所所長。2009年より静風荘病院にて女性外来を開始。
加齢とともに軟骨がすり減る。女性に特に多い膝の関節症
変形性関節症は、関節と関節の間でクッションの役割をする軟骨が老化とともに弾力を失い、使いすぎによってすり減るなどして関節が変形した状態をさします。膝、股関節、腰椎などに生じ、女性に多いのは膝の関節症。大規模調査ROADスタディで40歳以上の女性の6割以上にその所見があることがわかりました。初期には動き始めに痛む程度ですが、やがて歩行中も痛み、階段の昇降や正座が困難になり、変形が目立ち、歩行に支障が出てきます。
女性に多く、加齢とともに増加する
変形性膝関節症の有病率 大規模調査から明らかになった性差と特徴
変形性膝関節症は女性に多い
初期の症状は立ち上がりや歩き始めの痛み。進行すると歩行時や階段の上り下り時にも痛みを生じ、日常生活の動作に支障が出る。
●発症のリスクは女性が男性の3倍高く、山村部在住者が都市部在住者の2.6倍高い
変形性関節症に関する世界最大規模のROADスタディとは
変形性関節症や骨粗しょう症など運動器疾患の有病率や危険因子等を明らかにする目的で2005年から19年にかけて都市、山村、漁村の住民を対象に行った疫学調査。総延べ参加者数1万3500人を超える世界最大規模の研究で高齢者の介護予防に生かされています(研究代表者/東京大学医学部附属病院22世紀医療センターロコモ予防学講座特任教授・吉村典子氏)。
●年齢が1歳上がるごとに、発症のリスクは女性のほうが男性より上昇する
●有病率は女性の6割以上、男性の4割以上
レントゲン上で確認される有病率(40歳以上)は男性42.6パーセント、女性62.4パーセント
●推定患者数は女性1670万人、男性860万人
有病率を平成17年度の年齢別人口構成に当てはめた人数
*一方、変形性腰椎症は男性に多い有病率(40歳以上)は男性81.5パーセント、女性65.5パーセント推定患者数は男性1890万人、女性1900万人
●多くの人がいくつかの運動器疾患を合併しており、70歳以上のほとんどの人に何らかの運動器疾患が見られる
なぜ閉経後に多い?エストロゲンが関節に及ぼす影響
膝の関節症が更年期以降に増えてくる要因に女性ホルモン・エストロゲンの減少が関係しています。エストロゲンは軟骨を構成するコラーゲンの生成にかかわっており、閉経により分泌が減ると軟骨が作られにくくなり痛みを感じやすくなるのです。エストロゲン欠乏に伴って筋力が低下し関節の負担が増えることも要因と考えられています。
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次回に続く。
*NPO法人性差医療情報ネットワーク「女性外来マップ」では、女性外来を開設している医療機関(2018年現在約300か所)のリストを公開。
URL:
http://www.nahw.or.jp/hospital-info*「女性外来オンライン」(天野惠子先生主宰)では、天野先生ご自身が厳選した女性の健康の回復や維持に役立つ信頼性の高い情報を発信しています。
公式サイト「女性外来オンライン」:
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