タレント、俳優、エッセイストとして活躍する青木さやかさんには、わざわざ人には言わないものの、日頃から心がけている行動の基本ともいうべき「反省道」があるそう(
前編を読む>>)。主に8つのテーマからなるこの「反省道」、コツコツと実践してはいるものの、青木さんにとって一筋縄ではいかないようで……。等身大の自分と向き合う文章が共感を呼び、早くも重版となった最新著書『50歳、はじまりの音しか聞こえない』から抜粋してお届けします。
50歳にして、わたしの「反省道」(後編)
文=青木さやか
約束を守るというのも簡単なことじゃない。
食事の約束は守る。どんな小さな約束も順番にやっていく。口約束にしない、ということなのだけど、歳を重ねたせいもあるのか書き留めないと、わけがわからなくなる。書き留めたところで、殴り書きだと、なんて書いてあるかわからなくなるわ、一言だけだと、誰と何をしようとしてるのかさえ忘れている。困ったものだ。だから安請け合いを、前よりはしなくなった。お節介という性格から、なんでもかんでもやらせてもらいます、と大看板出して歩いてるところがあるし、なんなら頼まれてもいないことまで手を出して、せっせと相手の為だと思っている節がある。それで疲れてるんだから世話ない。
後輩から「食事連れてってください!」と言われることがあり、そんなありがたいことはないですよ、と思うのだが、仕事の宿題が溜まっていたり、娘のことをしばらくみてあげられてないな、と思ったり、動物愛護のところへボランティア行こうと思っていたな、と思い出し、
「必ず行きます、が、今月は無理なので」
と言うと
「いつでもいいので連絡ください!」
と言ってもらえるのだが、よし、書き留めようと思うと書き留めたことすら忘れてしまう情けなさ、みることすら忘れてしまう自分。
「あの、来月もう一度連絡いただけませんか?」
と失礼なお願いをしている。
約束は、した順番に。これも、何故か難題だ。
いただいた仕事が、どうしても手につかない、進まないことが、ある。
何がって、この原稿がそうだ。1年近く、どうしても進まなかった。どうしてもだ。だが他の原稿は書けるのだ。子どもの頃、テスト勉強しようと思うと他のことをやりたくなった名残だろうか。違うか。なんらかの理由があるのであろう。
約束といえば時間を守るというものがある。通知表には「遅刻が多いです」と常に書かれていた。それに対してわたしは、はい? 遅刻ならいいでしょう、あまり学校行かないさやかさんなのだから、遅刻しても行ってるわけでしょ、褒めてほしいくらいですよこっちは、と高校のときは思っていた。バイトだって気が向かないと休んでいた。クビになるたびにせっかく慣れたバイト先がなくなることも、わざわざ会うほどでもないが気兼ねなく話せるようになったバイト先の友人とも会えなくなるなーと思うと悲しかったけれど、休むこと多かったし仕方ないな、と1週間ゴロゴロ寝てれば忘れていた。このあたり、全く甘い感覚できてしまった。約束の時間より早く行くのはパチンコ屋に並ぶときだけなのだ。
だから、「わたしの割には、この仕事休んだことないんですけど! 凄いんですけど! 20年続いてる! 奇跡起きてる!」と、心の底から思っているのだ。だからどこかで遅刻だとしても間に合えば良くないですか? と思っていた。
しっかりするのだ。それでいいのか。自分自身を客観的にみられるところ、敢えて自分の恥部に目を向けられるところ、そんな自分をかくさない、さらけ出して表舞台に立つ潔さこそが、青木さやかのかっこいいところじゃないか。なかなかいないよ、頼まれてもいないのに真っ裸になるそんな人。たまに青木さやか分析する記事が載っているが、青木さやかを一番正しくチェックし、そして一番青木さやかを諦めないのは、わたし自身だ。一番正しい分析はここにある。
さあ、自分で、この遅刻についての数行を読み返してください。50歳ですよ。
そして最後の2つが、わたしにとって一番難しいものであった。
感情は、わたしにとって大きな問題の一つだ。人間関係がうまく行かなくなる原因の多くは、わたしにとっては感情から来るものが大きかった。もちろん、その時々の理由はある。それは正義感から来るものが大きかった。わたしが大切に思う人やモノを傷つけられたと判断したとき、途端に許せなくなる。いつか、わたしがやっつけてやるんだ、と体の中でその思いをもち続けてしまう。「頼まれてもいないのに、やっつけられても困るんだけどな」と、その人を思ってやったことだが、かえってその人を困らせたことがある。その正義感は、わたしのエゴであると仕方なく完全に認めたのは、最近のことである。
わたしには傷がある。言えない傷がある。誰にでもあるのだろうが、他人のそれに気配りができないほど、余裕がないときがあった。その傷を思い出させるような言動があったとき、わたしはそこから逃げ出したくなった。それがそのときの精一杯だった。近しい人に、バカにされたと感じたり理解してもらえないと思ったとき、とてもとても悲しくなる。悲しいのだ、と言えないわたしは感情の全てを怒りで表現していた。いくら、あとで悲しかったから、と本音を伝えてみたとしても、それは後の祭りのときがあった。だって、相手は傷ついているのだから。
感情、というものは、今でも近しい人を傷つけることがある。
不貞腐れる、というのは、なおさらタチが悪いのではないかと思うことがある。
何故なら、きっととても注意しづらい。ズルい。
「なにかあったのか?」と聞かれて、「なんでもない」だの「疲れてるだけ」だの、不機嫌に答えられた日には、「おい! そりゃないよ」と相手は心の中で叫ぶしかないだろう。素直じゃないもの。可愛くないだろう。
この基本の8つのことを完全にできているかというと不完全だ。だけど努力している。大きく変化したのは、「間違えた」とすぐに気づけるようになったことだ。牛歩だが、一歩一歩螺旋階段を上がっていっている実感はある。わたしにしかわからない。下がっているときもある。下がるときは簡単だ。せっかく積み上げてきたものも一瞬で崩れる。仕方ないから、もう一度やり直す。コツコツとやるしかないのだ。せっかちなわたしには苦行であるが、変わればみえる景色が変わる、ということを、わたしはもう知ってしまった。
わたしは、何も、誰も、否定しないと決めているので、何を言われても思われても、否定はしない。悲しいときは、もっと余裕をもてるように頑張ろうと、思う。
人に不満をもたない、もたれない、というのも心がけていることだ。
これまた、難題中の難題だ。人とわたしは違うから、一体、何で不満をもつかが正確にはわからない。だが、人にされてツラいなと思うことはしない、ということは心がけている。だから、なにかをジャッジして人と距離を自分からとることはしない。いなくなってしまったら、わたしが足りなかったのだと思うようにしている。寂しいけど、追わない。いつか、会えるように、頑張る。
8つのことができているかどうかを見直して、一瞬深く反省して、すぐに前を向く。できなかったことが、できるようになったとき、みえなかった景色が少しみえたとき、関係性を再構築できたとき、そんな嬉しいことはない。
人からいくら褒められるよりも、一番自分に厳しいわたしがわたしを褒めたとき、それが一番大きな力になり、消えない自信に繋がっていく。「嘘つかない」対象の第1位は自分自身に対してだ。自分に嘘つくと、心がどこか苦しくなる。
だから頑張ってやるしかない。
そして、なにより大切なのは、このようにぐだぐだとごたく並べてるヒマがあったら、行動する、ということだ。敏速に確実に命がけで行動をする。頭で理解をしなくていい、それを待っていたら過去の経験からくる疑り深さと固定観念で凝り固まってるわたしの頭では、先に死んでしまう。まず、行動。心は、あとでついてくる。と思って、頑張っている。
もっと自信をもって50代をすごしたい。これが希望の一つである。
自信をもたないと叱られてしまいそうだ。
わたしは、青木家の代表として、いまここにいる。そう考えてみると、何千何万とご先祖様がいたら、頼むから堂々としてくださいよ、と願うだろう。いつまでも「わたしなんか」と言わないでほしい、十分に頑張ってるじゃないか、と口を揃えて言っているのではないだろうか。わたしも娘には、どこで何をしていても、堂々としていてほしい。堂々としていられる毎日を送ってもらいたい。
話を元に戻すと、一人の人間の成長や反省を、まざまざとみせることが世の中の一つのピースのわたしが今できることじゃないか? と偉そうにも思っているのだ。そんなことができるほどに、青木さやかという名前を多くの人が知ってくれていて、ありがたい限りだ。
頭の回線が切れたのかもしれない。こんなふうに感じて行動にうつすなんて。何かの衝動がなければ、一人で勝手にやっていればいいことだから。まさかこんなこっぱずかしいこと書こうだなんて、自分で自分が理解できない今なのだ。わたしの書くものは、総じて反省文か決意表明のどちらかである。暑苦しいものが多いのだ。過去の贖罪(しょくざい)か。しかし反省は短く。やってしまったことは仕方ない。
すぐ前を向く。うまく行かないのは、頑張りが足らない、ただ、それだけのこと。
人は変われる。変わるまで、頑張る。だから、わたしは、諦めない。
『50歳。はじまりの音しか聞こえない』
アラフィフを経験するすべての女性たちに贈る、青木さやかさんの最新書下ろしエッセイ集。さまざまな困難な壁を乗り越えてきた著者が、50歳を迎えて乗り越える次なる壁とは。恋愛、断捨離、反省道……赤裸々に綴られた文章が多くの共感を呼び、早くも重版出来!
青木さやか 著 1760円/世界文化社
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