11月・悟りへの道
(訳)大地のせいでつまずく者は、むしろ大地のおかげで起きることができ、道を行きながら迷子になる者は、むしろ道を行くことで行き方を悟る。永万2(1166)年に、説法の名手澄憲の作った表白(法会の趣旨を漢文体で綴ったもの)の一節である。表白は法会の中で読み上げられるものなので、独特なリズムをもつ美文で構成される。澄憲(1126~1203年)は、藤原通憲(みちのり)(信西(しんぜい))の息子で、唱導の流派、安居院流(あぐいりゅう)の祖である。
選・文=渡部泰明(日本文学研究者)地面につまずくからといって、地面がなければ立ち上がれはしない。道に迷うからといって、道を進まなければどう行けばよいのかもわかりはしない。そう述べた後には、真理への妨げになる和歌などの文芸も、だからこそ真理へと至るより所となるのだ、という結論へと至る。
文芸を迷妄の原因となると見て否定する立場から、文芸があるために悟りに近づくと、積極的に肯定する立場へと反転する、ダイナミックな論理展開だ。もちろんそれには、仏法と縁を結ぶことが必須の条件になる。経典の中にしばしば見える論理だが、中世日本の文芸に関わって、愛用された。
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