がんまるごと大百科 第11回【緩和ケア編】(01)「緩和ケア」という言葉を知る人は増えてきたものの、「終末期に受けるケア」というイメージを抱く人が多いようです。しかし、国では診断時からの緩和ケアの提供を目指し、診療体制を整備しています。緩和ケアについて理解を深め、積極的に活用しましょう。
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診断時から苦痛に対処し治療中のQOLを向上
里見絵理子(さとみ・えりこ)先生里見絵理子先生
国立がん研究センター 中央病院 緩和医療科 科長。消化器内科医として研鑽を積んだ後、2004年より大阪医療センター緩和ケアチーム専従医師として診療に従事。以後、がん緩和ケアを専門とする。14年より現職。がん相談支援センターセンター長を兼任。
診断時から緩和ケアを提供する診療体制を国が整備している
「がんの緩和ケア」と聞くと「終末期」を思い浮かべる人が多いことでしょう。しかし、「がんと診断されたときから緩和ケアを提供する」診療体制が整備されてきた今、私たちはこの認識を改める必要があります。「国はがん対策推進基本計画に基づき、がんの診断時から緩和ケアを提供することを目指し、がん診療に携わるすべての医師を対象に緩和ケアの研修を実施してきました」と里見絵理子先生は説明します。2022年3月末現在、この研修を修了した医師は全国で15万7715名になります。
WHO(世界保健機関)の定義では、緩和ケアとは患者と家族が直面する苦痛を予防し和らげることを通してQOL(人生・生活の質)を向上させるアプローチのことを指し、その対象はがんだけに限らず、生命を脅かす病気とされています。そして、患者や家族が抱える苦痛には身体的苦痛、精神的苦痛、社会的苦痛、スピリチュアルペインの4つの側面があり、それぞれが影響し合い、トータルペイン(全人的苦痛)を引き起こすと考えられています(下の図参照)。
【4つの苦痛が影響し合いトータルペインが起こる】
日本緩和医療学会緩和ケア継続教育プログラム(PEACE)資料などを参考に作成
医師には苦痛症状だけでなくそれによる困り事を伝える
医師たちはこのような苦痛を構成する要素や構造を含めた基本的な知識をはじめ、苦痛に対するアセスメント(分析・評価)や医療用麻薬・鎮痛薬などの使い方といった治療技術、患者・家族への接し方などについて緩和ケアの研修会を通して学んでいます。従って「つらいことは我慢せず、治療を担当してくれる医師(担当医)に率直に伝えて対応してもらうことが大切です。伝え方のポイントとしては苦痛症状に加え、その症状があるためにどのような生活の支障があるのか、何がつらいのかということを話します。例えば“手がしびれる”場合は“包丁が持てなくなったので家族に食事が作れない。自分の役割を失ったようでつらい”ということまで伝えるのです」と里見先生はアドバイスします。
緩和ケアの効果は治療中のQOLを高めるだけでなく、安心して治療に専念できることでがんの予後にも好影響をもたらします。過去の研究では早期から緩和ケアを受けることにより生存期間が延びる可能性があることが示唆されています。緩和ケアについてよく知り、積極的に活用しましょう。