【A.ランゲ&ゾーネ】ザクセン王国の完璧主義を受け継ぐ時計。美しき黄金比
人生を彩る時計メゾン 「A.ランゲ&ゾーネ」 ドイツ時計作りの最高峰を継承する「A.ランゲ&ゾーネ」。ひと目でそれとわかるアイコニックなダイヤルデザインには、その美しさを裏づけするレシピが隠されていました。
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スイスに次ぐ時計の大国、ドイツ。その頂点に君臨するのが「A.ランゲ&ゾーネ」です。同メゾンの物語は旧ザクセン王国の君主が居城を構えたドレスデンに始まります。1830年、後に宮廷時計師となるフリードリッヒ・グートケスの工房に、15歳の青年が弟子入りしました。A.ランゲ&ゾーネの創業者となる、フェルディナント・アドルフ・ランゲです。
完璧主義を徹底するザクセンのモノ作りを驚異的な速さで学んだ彼は、更なる修業のためフランスやスイスに渡り最新技術を習得して帰国。1845年に時計工房を設立します。世界的にも評価され業績を伸ばしていきましたが、東側に位置していた工房は東西冷戦で国営化されてしまいます。
4代目ウォルター・ランゲが西ドイツに脱出するとブランドは休眠状態に。しかし、1989年にベルリンの壁が崩壊すると、時計作りを諦めきれなかったウォルターは故郷に戻り会社を再興。1994年にブランド復活の第一歩として「ランゲ1」を発表しました。
黄金比とは、建築や美術、また自然界などにも存在する最も美しい比率の指標。数値に置き換えれば1:1.618033……となり「ランゲ1」のダイヤルデザインは、この黄金バランスに基づいて設計されています。右・「ランゲ1」をひと回り小さくしてロマンティックなムーンフェイズ機能と、爽やかなホワイトストラップを装着した「リトル・ランゲ1・ムーンフェイズ」(18Kピンクゴールドケース、アリゲーターストラップ、ケース径36.8ミリ、手巻き)価格は問い合わせ。左・「ランゲ1」(18Kピンクゴールドケース、アリゲーターストラップ、ケース径38.5ミリ、手巻き)610万5000円/ともにA.ランゲ&ゾーネ
この時、時計関係者の誰もがオフセットされた美しいアシンメトリーダイヤルに心を奪われました。ダイヤルと時分サークルの直径の比、大きな日付表示窓の形状は黄金比に基づいています。機能美と黄金比が融合した「ランゲ1」は、同メゾンの復活を象徴するモデルとして、現在も最も人気の高い時計です。
ムーブメントの徹底した美しさも同メゾンの真骨頂。時計の歯車を支えるプレートが、全体の4分の3を覆うことで安定性を高めているのがドイツ・ザクセンに根づく時計作りの伝統です。ブリッジ部分には、花を象ったハンドエングレービングも施されています。
ザクセン州ドレスデンとA.ランゲ&ゾーネ
ドイツ・ドレスデンにあるゼンパー歌劇場の「五分時計」。これは1841年に創業者アドルフ・ランゲと彼が弟子入りした宮廷時計師フリードリッヒ・グートケスの共同製作によるもの。これが「ランゲ1」の特徴である「アウトサイズデイト(日付表示を1枚のディスクではなく2枚のディスクで大きく表示する技法)」のお手本になっています。
4代目ウォルター・ランゲ(1924-2017年)の奥の銅像が、A.ランゲ&ゾーネの創業者であるフェルディナント・アドルフ・ランゲ(1815-1875年)。
天才的な時計師であると同時に優れた人格者でもあった彼は、鉱山の廃坑によって困窮しているエルツ山地の人々を救いたいという思いから、この地の基幹産業となるべく時計工房を開きました。