クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
連載一覧はこちら>>
第52回 フランツ・リスト『ラ・カンパネラ』
イラスト/なめきみほ
史上初のアイドルにして、風呂の残り湯を盗まれるほどの人気者!?
今日10月22日は、フランツ・リスト(1811~86)の誕生日です。
残された肖像画や写真に見るリストの容貌はまさに絶世の美男子。長身痩躯でワンレングスの美しい黒髪に縁取られた小さな青白い顔と憂いに満ちた眼差しは、人の心を鷲掴みにする魅力に満ちています。その美男子が超人的ピアニストとなれば、女性にもてないわけがありません。
そのリストを語る上で欠かせないのがヴァイオリンの鬼才パガニーニ(1782~1840)との遭遇です。21歳の年に聴いたパガニーニの圧倒的な演奏に感動したリストが「私はピアノのパガニーニになる。そうでなければ気が狂う」と叫んだ逸話は有名です。こうして生まれた作品が、『ラ・カンパネラ』として知られる『パガニーニによる大練習曲』第3番嬰ト短調です。
「リサイタル」という形式を作り上げ、肖像画やメダルなどのキャラクターグッズを手がけたリストはまさに空前絶後のスーパースター。貴婦人たちはリストが吸った葉巻の吸い殻を奪い合い、“風呂の残り湯までもが盗まれた”という、笑えない逸話が残されているのですから凄すぎます。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。