クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第53回 ボロディン オペラ『イーゴリ公』
イラスト/なめきみほ
化学者と作曲家の二刀流を貫いたロシアの異才
今日10月23日は、ボロディン(1833~87)のオペラ『イーゴリ公』の初演日です。
“力強い仲間たち”と呼ばれた「ロシア5人組」の1人で、「ボロディン反応」にその名を残す超一流の化学者でもあったボロディンは、忙しい化学者としての仕事の合間に作曲を行う“日曜作曲家”。今でいうところの二刀流の才人でした。作曲家を志すきっかけも、軍医時代に出会ったムソルグスキーからの影響であり、30歳でバラキレフと出会うまでは、正式に作曲法を習ったことすらなかったというのですから驚きです。
そのボロディンが力を注いだオペラ『イーゴリ公』は、ボロディンの死によって未完となりますが、残された楽譜に手を加えてまとめ上げたのが、同じ「5人組」の1人であったリムスキー=コルサコフとその弟子のグラズノフです。
以前は『ダッタン人の踊り』と呼ばれていた『ポロヴェツ人の踊り』は、捕虜となった主人公イーゴリが、敵の首領コンチャーク汗に歓待されるシーンで演奏される美しい音楽です。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。