クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第54回 ベートーヴェン『ピアノ、ヴァイオリン&チェロのための三重協奏曲』
イラスト/なめきみほ
20世紀最高の顔合わせによるベートーヴェンの意欲作
今日10月24日は、旧ソ連を代表するヴァイオリニストのダヴィッド・オイストラフ(1908~74)の命日です。
同胞である名ピアニスト、リヒテルをして「史上最大のヴァイオリニスト」と言わしめたその魅力は、大地に根が生えたかのような演奏姿勢から生まれる、豊潤で美しい音色にあります。
彼が残した数多くの録音の中でもひときわ印象的なアルバムが、リヒテル(ピアノ)&ロストロポーヴィチ(チェロ)とともに、カラヤン指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団と共演した、ベートーヴェンの『三重協奏曲』でしょう。交響曲第3番を作曲中のベートーヴェンが、1804年に完成させたこの作品は、3つの独奏楽器とオーケストラの融合を目指したベートーヴェンの意欲作です。
実演のためには3人の名手を要するという難しさがあるものの、その効果は素晴らしく、近年再評価が進むベートーヴェン作品の筆頭です。当代最高のソリストを集めたカラヤンの思惑もまさにそこにあったようです。
※文中で触れたアルバムとは異なります
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。