クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第55回 チャイコフスキー『ピアノ協奏曲第1番』
イラスト/なめきみほ
“演奏不可能”の評価から一転、人気曲となったチャイコフスキーの自信作
今日10月25日は、チャイコフスキー(1840~93)の『ピアノ協奏曲第1番』の初演日です。
古今東西のピアノ協奏曲の中でも、最も有名な作品の1つであるこの曲が完成したのは1875年。チャイコフスキー34歳の年でした。すでに数々の名作を世に送り出し、作曲家として高く評価されていたチャイコフスキーは自信満々。モスクワ音楽院院長で大ピアニストのニコライ・ルビンシテインに作品を見せたところ、なんと「演奏不可能、書き直すなら演奏してやらんでもない」などと酷評されてしまったのです。
憤慨したチャイコフスキーは、ドイツの名ピアニストで指揮者ハンス・フォン・ビューローにこの作品を献呈。そのビューローが1875年10月25日にアメリカのボストンで初演し、一躍人気曲になったという逸話が残されています。なお、ルビンシテインは初演の3年後にチャイコフスキーに謝罪。自らもこの曲を頻繁に演奏するようになったことで、2人の友情も元どおりになったということです。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。