季節の賞翫 飾り花造花工藝作家の岡田 歩さんが綴る、四季折々の行事と草花の物語を月に1回、12か月紹介する連載です。一点一点丁寧に、創意工夫を凝らして作った飾り花を賞翫しましょう。
※賞翫/良い物を珍重し、もてはやすこと。物の美を愛し味わうこと。
12月 クリスマスと新年をつなぐ緑の懸け橋
文=岡田 歩(造花工藝作家)
冷たい北風が木々の葉を吹き飛ばし、舞い落ちた色とりどりの葉が地面を美しく飾ります。枯れ果てた無彩色の木立を見上げると、鳥の巣と見紛うばかりの常緑の宿り木の姿を見かけるようになりました。季節は間もなくクリスマスです。
数種類の厚さの絹の布を用いて、微妙に異なる複数の色に手染めし、宿り木の葉をこしらえました。和の空間でも、西洋風のインテリアにも似合うようにと意識し、葉の素材と結んだ紐の質感の調和を大切にしました。
子供の頃に通っていた教会学校で、アドベントクランツの蝋燭に火が灯るとクリスマスが近くなってきたことに胸が高鳴りました。アドベントクランツとは、クリスマスの4週間前に準備する4本の蝋燭を飾るリースで、1週間ごとに1本ずつ蝋燭に火を灯し、お祈りを捧げます。
教会学校では、毎年クリスマスの礼拝のときにクリスマスページェント(降誕劇。キリストの降誕の一連の物語の宗教劇)を行うのですが、引っ込み思案でのんびり屋、「さしすせそ」がうまく発音できない舌足らずの私は、主要な役を任されることはなく、セリフも1つか2つの個性も名前もない、景色としての星や天使の役を一生懸命に演じていました。礼拝を終え、日が暮れたあと、子供たちが小さな蝋燭を各々の手に持ち、先生と一緒に近所のお友達の家を順番に回ります。それぞれの玄関先でクリスマスキャロルをみんなで歌ったことが、大人になった今でも心あたたまる大切な思い出です。
西洋ではクリスマス頃から年末年始にかけて宿り木を飾り、健康と幸せを祈り新年を迎えるそうです。クリスマスといえば柊が主流だった日本でも、最近では宿り木でつくられたリースや飾りを目にするようになりました。年末の頃には和室に照り葉やクリスマスローズとともに飾る方もいらっしゃるとか。あっという間に過ぎ去ってしまった一年にしみじみと思いを巡らせ、和にも洋にも映える宿り木の飾りをこしらえました。
宿り木の実は一粒一粒、紙粘土で作り、筆で着彩しました。仕上げに艶出しのニスを用いて半透明の実の色を表現しています。
宿り木はビャクダン科の半寄生植物で、古来、日本に生息する万葉の植物としても認知されており、榎、橅(ぶな)、水楢(みずなら)、欅や桜など落葉広葉樹の幹や枝に寄生し繁茂することに由来して、和名は「寄生(木)」とも綴ります。また、「ほや」、「ほよ」などという古名もあるそうです。寄生する木の種類により効力が異なると聞きますが、日本でも西洋と同様に、古くから神聖な植物とされ、薬効があり、不老不死や永遠の命、生命力の象徴ともされている植物です。
宿り木の花言葉は、「忍耐」「困難に打ち勝つ」とのこと。一年の締めくくり。やがて来る新しい一年も気持ちを強く保ち続け、自他ともに健康に幸せでありますように……と心を込めて仕上げました。
岡田 歩(おかだ・あゆみ) 造花工藝作家
物を作る環境で育ち幼少期より緻密で繊細な手仕事を好む。“テキスタイルの表現”という観点により、独自の色彩感覚と感性を活かし造花作品の制作に取り組む。花びら一枚一枚を作り出すための裁断、染色、成形などの作業工程は、すべて手作業によるもの。
URL:
https://www.ayumi-okada.com撮影協力/
六雁・
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