クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第56回 スカルラッティ『ソナタK.380、K.490、K.491、K.492』
イラスト/なめきみほ
1685年はクラシック史上屈指のヴィンテージ・イヤー
今日10月26日は、イタリア・バロックを代表する作曲家ドメニコ・スカルラッティ(1685~1757)の誕生日です。同年生まれに、J・S・バッハ(1685~1750)とヘンデル(1685~1759)が存在することも要チェックです。
ナポリの有名な音楽一家のもとに生まれたスカルラッティは、“鍵盤楽器音楽の革命家”と呼ばれる存在です。その最大の成果が、長年仕えたポルトガル王女マリア・マグダレーナ・バルバラ(1711~58)のための練習曲として作曲された555曲にも及ぶチェンバロ・ソナタでしょう。
単一楽章の中に、大胆な和声や新たな演奏技巧がちりばめられた美しい作品の数々からは、30年以上も続いた王女とスカルラッティの強い結びつきが伝わってくるようです。当時使われていたチェンバロの能力を最大限に引き出したこれらの作品は、現代のピアニストたちにとっても重要なレパートリーとなっています。
ちなみに、作品番号として記される「K」の文字は、スカルラッティの作品を整理したアメリカの音楽学者カークパトリックのイニシャルからとられたものです。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。