クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第60回 J・S・バッハ『トッカータとフーガニ短調』
イラスト/なめきみほ
バッハがお披露目演奏を行った由緒正しき教会の再建日
今日10月30日は、ドレスデンの象徴「聖母教会」の再建日です。
この美しい教会は、第2次世界大戦のドレスデン爆撃によって崩壊し、40年間放置されたままだったところが、1985年に「かつての敵同士の和解を象徴する建築物」として再建が決定。2005年10月30日からプロテスタントの感謝祭である10月31日の宗教改革記念日にかけて行われた祝賀式典を経て、再び教会として蘇ったのです。
再建においては、ドームを除いて可能な限りオリジナルの建材と設計に基づいた方法がとられ、火災で焼けた古い石と新しい石の違いがはっきりわかることも外観の特徴となっています。
教会のシンボルだったかつてのオルガンは、高名なゴットフリート・ジルバーマンが製作。1736年12月1日に行われたお披露目演奏は、なんとJ・S・バッハだったというのですから恐れ入ります。一体何を演奏したのかは定かではありませんが、名高い『トッカータとフーガニ短調』あたりが鳴り響いたことを想像すると素敵です。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。