2023年夏、96歳で惜しまれつつ世を去ったトニー・ベネット。豊かな声量と細やかな表現力、そしてなによりその特別な歌声で、1950〜60年代に「霧のサンフランシスコ」をはじめとする数々の楽曲をヒットさせた。
あたたかくスモーキーな声で歌う往年のヒット曲もベネットの魅力だが、やはりその功績は、70年以上幅広いジャンルの曲を歌って活動し続けたところにある。
特に2000年以降は若いアーティストとのデュエットに積極的に取り組み、再び注目を集めた。なかでも強い絆で結ばれるようになったのが、現代の歌姫、レディー・ガガだ。
2021年に発表したガガとの2枚目のジャズ・アルバム『ラヴ・フォー・セール』からは、二人が互いの表現に惹かれ、尊敬し合いながら歌声を交わらせていることが伝わってくる。ベネットは2016年にはアルツハイマー病と診断されていたというが、闘病しながら演奏活動を続け、このアルバムで、95歳60日という史上最高齢リリースの記録を樹立した。
アメリカ・エンターテインメント界最高のヴォーカリストが残したものは、若い共演者たち、そして世界の音楽ファンの中で生き続ける。
Tony Bennett(トニー・ベネット)
1926年ニューヨーク生まれ。1962年「霧のサンフランシスコ」が大ヒットし、以後、アメリカを代表する伝統的ポップ・ジャズ・シンガーとして長らく活躍。95歳だった2021年にはニューヨークでレディー・ガガと最後のコンサートを行った。2023年7月に他界、享年96。 Photo by Steven Klein
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[CD]トニー・ベネット&レディー・ガガ『ラヴ・フォー・セール』 UICY-40354 3080円 ©ユニバーサル ミュージック
トニー・ベネットとレディー・ガガは、2011年にチャリティイベントで出会い、60歳の歳の差をこえて意気投合、2014年『Cheek To Cheek』を共作した。『ラヴ・フォー・セール』は、以来、約7年ぶりのコラボレーションによるジャズ・アルバム。2021年10月にリリースされた。アメリカの作曲家、コール・ポーターの音楽世界を二人が解釈し、デュエットとソロで聴かせる。
[曲目]
「イッツ・ドゥ・ラヴリー」
「ナイト・アンド・デイ」
「ラヴ・フォー・セール」
「君にこそ心ときめく」
「レッツ・ドゥ・イット」※レディー・ガガ・ソロ
「ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングス」※トニー・ベネット・ソロほか