クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
連載一覧はこちら>>
第65回 ブラームス『交響曲第1番』
イラスト/なめきみほ
21年の歳月をかけたブラームスの交響曲デビュー
今日11月4日は、ブラームスの『交響曲第1番』初演日です。
ドイツ・ハンブルクに生まれたブラームス(1833~97)は、ロマン派を代表する大作曲家です。彼が残した4つの交響曲の最初の作品である『第1番』の完成は、ブラームスが43歳となった1876年。22歳での着想以来、なんと21年もの年月を要した大作でした。
「暗黒から光明へ」という作品テーマもベートーヴェン的なこの曲は、同時代の大指揮者ハンス・フォン・ビューローによって「ベートーヴェンの交響曲第10番」と表現されています。ベートーヴェンの後継者を自認していたブラームスにとって、“楽聖”が残した不滅の9曲に続く名作に例えられたことは大変な名誉であり、プレッシャーでもあったことでしょう。
その後は吹っ切れたように『第4番』までの交響曲を完成させます。初演は1876年11月4日、カールスルーエの大公宮廷劇場でオットー・デッソフの指揮で行われた後、マンハイムとミュンヘンにおいて作曲家自身の指揮によって披露されています。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。