クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第80回 シューベルト『ピアノソナタ第21番』
イラスト/なめきみほ
シューベルトが死の直前に残した音楽の魅力とは
今日11月19日は、シューベルト(1797~1828)の命日です。
ウィーンの貧しい教員一家のもとに生まれたシューベルトは、わずか31年の生涯に膨大な作品を残します。その量たるや、普通に楽譜を書き写すだけでも、31年ではとても無理だというのですから驚きます。まさに“音楽が泉のように湧いてくる”という例えがぴったりの生涯だったのです。
そのシューベルトの遺作として知られる『ピアノソナタ第21番』は、彼がこの世を去る1828年に相次いで書かれた3曲のピアノ・ソナタ(19番、20番&21番)の最後を飾る名作です。これらの作品は、シューベルトの死から10年後にディアベリ社から「フランツ・シューベルト最後の作品(3つの大ソナタ)」として出版されています。
わずか31年の生涯の最後に、まったく演奏される希望も無しに書かれた音楽がいかなるものか。胸が締め付けられるような音楽がここにあります。ちなみに「遺作」とは、生前に作曲されたものが出版されず、作曲者の死後に出版された作品の総称です。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。