クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第81回 ベートーヴェン オペラ「フィデリオ」
イラスト/なめきみほ
オールマイティな作曲家を誕生させた唯一のオペラ
今日11月20日は、ベートーヴェン(1770~1827)のオペラ『フィデリオ』の初演日です。
ベートーヴェンの凄さとは、“すべてのジャンルにおいて最高の作品を残したこと”。その意味において、ベートーヴェン唯一のオペラである『フィデリオ』の存在は、とても大きく感じられます。
敬愛するモーツァルト(1756~91)のような喜劇作品は自分には絶対に無理だと承知の上で書き上げたオペラは、ベートーヴェンが標榜し続けた「愛・自由・正義」をテーマに掲げた意欲作。まさに、彼が生き抜く時代を表現した傑作です。
例によって悩みに悩んだ結果、オペラの幕開けを告げる序曲「レオノーレ」は3曲も作られ、当初予定されていた『レオノーレ』というオペラの標題も『フィデリオ』に変更するなど大混乱。ようやくこぎつけた初演は1814年11月20日。ナポレオン軍が占領するウィーンで行われています。当時17歳だったシューベルト(1797~1828)は、教科書を売り払ってチケット代を捻出したと伝えられます。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。