クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第70回 ベートーヴェン 弦楽四重奏曲第13番第5楽章『カヴァティーナ』
イラスト/なめきみほ
地球外知的生命体もきっと驚く美しさ
今日11月9日は、アメリカの天文学者にしてSF作家カール・セーガン(1934~96)の誕生日です。
この20世紀を代表する叡智とクラシック音楽との接点は、1977年に打ち上げられたアメリカの宇宙探査機「ボイジャー」です。同機に搭載された、地球の生命や文化の存在を伝えるための音や画像を選んだのが、カール・セーガンを中心とした委員会でした。
クラシック音楽から選ばれた作品の中で、個人的に最も印象的な音楽が、ブダペスト弦楽四重奏団の演奏によるベートーヴェンの「弦楽四重奏曲第13番第5楽章『カヴァティーナ』」です。1825年に完成した同曲は、ベートーヴェンの弦楽四重奏曲(全16曲)の中でも最大規模。終楽章に置かれた「大フーガ」は賛否両論だったため、友人や出版社の助言を受け入れたベートーヴェンは、新たな終楽章に差し替えて出版したといういわくつきの作品です。
それにしても“叙情的なアリア”を意味する第5楽章『カヴァティーナ』の美しさには、未知の地球外知的生命体もうっとりすること間違いなし。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。