クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第72回 R・シュトラウス『ドン・ファン』
イラスト/なめきみほ
稀代の色事師を音楽で描き出したシュトラウス初期の名作
今日11月11日は、ドイツ後期ロマン派の作曲家、リヒャルト・シュトラウス(1864~1949)の交響詩『ドン・ファン』の初演日です。
「ドン・ファン」とは17世紀スペインの伝説上の好色放蕩な美男で、ティルソ・デ・モリーナの戯曲『セビリアの色事師と石の招客』がその原型とされています。「女たらし」の代名詞としての彼(ドン・ファン)は、モーツァルトのオペラ『ドン・ジョヴァンニ』や、E・T・A・ホフマン、トルストイ&バイロンの『ドン・ジュアン』などの名作にその名を残す稀代のプレイボーイです。
「音楽だけで真実を表現し、言葉ではただ暗示するだけ」と語るシュトラウスの『ドン・ファン』は、題材としたニコラウス・レーナウの詩に内存する情緒と感情を豊穣な音楽で表現した名作です。初演は1889年11月11日、ワイマールの宮廷で、R・シュトラウス自らの指揮によって行われています。ちなみに、このR・シュトラウスとウィーンのヨハン・シュトラウス一族とは赤の他人。血縁関係はありません。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。