クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第73回 ボロディン『弦楽四重奏曲第2番 ノクターン』
イラスト/なめきみほ
愛する妻に捧げた20年目の名旋律
今日11月12日は、ロシア国民楽派の作曲家アレクサンドル・ボロディン(1833~87)の誕生日です。
ロシア国民楽派はグリンカに始まり、バラキレフ、ムソルグスキー、ボロディン、リムスキー=コルサコフ、キュイの「ロシア5人組」を中心として大成されたとされています。
この5人組の最年長にして、超一流の科学者であったボロディンは、仕事の合間に作曲をするという、いわゆる“日曜作曲家”でした。その忙しい仕事の合間を縫って作曲された『弦楽四重奏曲第2番』の完成は1882年。多忙なボロディンにしては珍しく、わずか2か月ほどで完成させたと伝えられる名曲です。
作品は、愛する妻エカテリーナと知り合ってから20年目にあたる記念としてエカテリーナに捧げられているのですから、ロマンチックなことこの上なし。第3楽章「ノットゥルノ」の夢見るような美しさは特に素晴らしく、ロシア的な薫りと色彩感に満ちたこの作品が「ノクターン」と呼ばれるきっかけとなった名旋律です。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。