クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
連載一覧はこちら>>
第86回 黛 敏郎 オペラ『金閣寺』
イラスト/なめきみほ
日本文学と音楽の融合が生み出した“美の結晶”とは
今日11月25日は、日本文学界を代表する作家、三島由紀夫(1925~70)の命日です。
その代表的な小説は、『仮面の告白』『潮騒』『憂国』『豊饒の海』など枚挙にいとまがありません。さらには戯曲においても『近代能楽集』『鹿鳴館』『サド侯爵夫人』などなど。あまりにも衝撃的な最期と共に、20世紀日本の文学界を席巻した異才の業績は、今も鮮明に記憶されています。
中でも1956年に発表された長編小説『金閣寺』は、日本文学を代表する傑作です。金閣寺の美しさに取り憑かれた学僧が、思い余って放火するまでを、一人称の告白文体で描いたこの作品は、三島由紀夫の名を世に知らしめた重要な作品と言えるでしょう。その影響力は凄まじく、映画化や舞台化の波は音楽の世界にも及び、黛 敏郎のオペラ『金閣寺』を生み出します。
名門ベルリン・ドイツ・オペラからの委嘱によって完成されたこのオペラの初演は1976年。黛 敏郎の代表作としてのみならず、日本オペラ史上屈指の金字塔として今も語り継がれる名作がここに誕生したのです。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。