クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第89回 ベートーヴェン『ピアノ協奏曲第5番“皇帝”』
イラスト/なめきみほ
ナポレオン軍占領下のウィーンで完成させた名旋律
今日11月28日は、ベートーヴェン(1770~1827)のピアノ協奏曲第5番『皇帝』の初演日です。
ベートーヴェンの代表作として愛されるこの作品の背景からは、作曲当時ウィーンを占領していたナポレオン率いるフランス軍に対するベートーヴェンの激しい怒りと、ウィーンを思う憂いが垣間見られます。フランス軍に包囲され、シェーンブルン宮殿までもが占拠されてしまうという悲惨な状況下にあったウィーンにおいて、親交のある貴族たちはこぞって避難。断固として街に踏みとどまったベートーヴェンは、砲弾が飛び交う中、地下室にこもって作曲を続けたと伝えられます。
そのような緊張感の中で完成された「ピアノ協奏曲第5番」は、自らの雄々しい高揚感が反映された壮大な作品となり、その力強さから、いつしか“皇帝”と呼ばれるようになった名作です。初演は、1811年11月28日。ライプツィヒのゲヴァントハウスでの演奏会において、フリードリヒ・シュナイダーのピアノによって行われています。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。