クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第76回 ショスタコーヴィチ オラトリオ『森の歌』
イラスト/なめきみほ
過酷な環境を生き抜くための音楽とは
今日11月15日は、ショスタコーヴィチ(1906~75)のオラトリオ『森の歌』の初演日です。ショスタコーヴィチの声楽作品の中で最も有名なこの曲の初演は1949年。旧ソ連の自然改造計画をたたえる作品として生み出されました。
その背景には、“西洋モダニズムの悪影響を受けている”と指摘され、窮地に追い込まれた自らの立場を好転させたいと願う、ショスタコーヴィチの悲しい思いが見え隠れするようです。これはかつてのインタビューで、「ワインのための葡萄作りと音楽家の育成はよく似ている。どちらも過酷な環境であればあるほど、素晴らしいものが生まれてくる」と語った旧ソ連の音楽家の言葉にも通じるようです。
なるほど、20世紀半ばに、旧ソ連の鉄のカーテンの向こう側から現れたリヒテル&ギレリス(ともにピアノ)、そしてオイストラフ(ヴァイオリン)たちを筆頭とする音楽家たちのなんと凄かったことでしょう。西側の人々を圧倒した彼らの音楽からは、過酷な環境を生き抜く決意が伝わってくるようです。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。