がん患者には多様な不安や悩みが生まれる
2013年に「がんの社会学」に関する研究グループががん患者・体験者4054人に悩みや負担について調査したところ、“不安などの心の問題”が最も大きいことがわかりました(下のグラフ)。
“症状・副作用・後遺症” “診断・治療” “就労・経済的負担”も強いストレスの要因になると考えられます。
がん患者・体験者4054人に悩みや負担を聞いたところ、3割強が“不安などの心の問題”を抱えていると回答。“症状・副作用・後遺症” “診断・治療” “就労・経済的負担”の割合も高く、ストレスになっていることがうかがえる。(「2013がん体験者の悩みや負担等に関する実態調査 報告書」「がんの社会学」に関する研究グループ、2016年)
「心の状態は、治療の継続や生活の質に大きく関係します。例えば、抑うつが強いと痛みが増し、また、痛みが強いと抑うつになりやすいことが研究で明らかになっています」
患者だけではなく、患者の家族も“第2の患者”ともいわれ、心身に影響を受けることも知られています。「がん患者さんやご家族には、ぜひご自身の心の状態に目を向けて、心のケアについて関心を持っていただきたいですね」
がん患者の不安や悩みに対して、精神腫瘍医など多様な専門家がサポートする
「がん患者さんの精神医学的な病気として多いものは、適応障害、うつ病、せん妄の3つです」と松岡先生。
適応障害は、先に述べた一般的な適応の経過がうまくいかず、うつ状態が続いて、仕事や家事が手につかない、眠れないといった状態で日常生活に支障が出ているケースです。さらに深いうつ状態で、気分の落ち込みが2週間以上続いている場合は、うつ病と診断されます。
うつなどの症状があっても診断がつかないことも多い
せん妄は、特に入院中や終末期に出やすく、場所や日付がわからないというような認知能力の低下、幻覚や妄想、突飛な行動、逆に活動が鈍り、ぼーっとしているというケースもあります。脱水や薬の副作用などが原因になることもあります。
「がん患者さんのうつ状態やせん妄は、程度にもよりますが、担当医や看護師が見落とすことも多いという海外のデータがあります。患者さんご本人や周囲のかたには治療が必要な精神状態に陥ることがあることを知っておいていただきたいですね」。
一方、「前述の3つの診断名がつかない患者さんが約半数程度との報告もあります」。診断名はつかないけれど、以前のような生活に戻れない、ときどきひどく落ち込む、といった患者さんが多いのです。
精神的な症状だけではなく、身体にもさまざまな症状が出ることがあります。例えば、頭痛、不眠、血圧の上昇、食欲不振や過食、便秘や下痢などです(下)。
「これらはストレスが原因となる“心身症”の病態を示している可能性があります」。ただし、「がんそのものやがんの治療の副作用が原因で、これらの身体的な症状が出ることがあることも覚えておいてほしい」と松岡先生。「担当医や薬剤師、看護師にがんや治療の影響について聞いておくこと、また気になる症状が出たら早めに問い合わせることが大切です」。
【がんの治療とともに心のケアも大切に】
(1)心のケアの重要性治療の継続、生活の質の担保のために、不安や悩みとうまくつきあう→悪い知らせにショックを受けた後、落ち込んだ気持ちが回復しないことも多く、そうすると生活に支障が出たり、治療の継続が難しくなったりすることがある。
(2)心のケアの専門家精神腫瘍医などがんに特化した専門家が支援→精神腫瘍医(心療内科医または精神科医)、公認心理師など、がん患者や家族の心をケアする専門家がいることを知っておきたい。
(3)心の状態の振り返り今の気持ちを素直に表に出してみることが第1歩→不安や悩みがあっても気づかない、気づいてもうまく出せないことがある。不安や悩みの原因や対処法を知るには、まずは自分の気持ちを理解することから。すぐにうまく言葉にできなくても専門家の助けも借りられる。
※次回へ続く。
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