慌ただしい季節だからこそ、いつもより花を生かす空間をゆったりと取ってみる
語り/小林 厚
12月は一年の締めくくりやクリスマスなどで人が集まる機会が増える時期であり、また来年に向けて年迎えの準備もあって、自宅で入れる花もその時々で変化に富む月かもしれません。こんな季節には華やかな洋花もよいでしょうが、ここでは今月もまた野山にあるような和花を主に入れていこうと思います。
生花店から届いた枝ものをまず庭で整理する小林さん。枝や葉の形を自然な状態に整えながら、実際に使う部分を吟味していく。この時点で入れる空間や使う道具、そして入った状態をさまざまにイメージしている。
この季節になると自然界では花が少なくなり、照り葉なども葉を落としているので、花材も一部が枯れているようなものが増えてきます。そんな植物の姿をどう楽しみながら入れていくか。以前にも花を入れる際に、僕は花材や花器の陰陽のバランスを考えているとお話ししたことがあります。
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盛夏の緑「さまざまな葉っぱで花レッスン」戸田博さん連載・季節の茶花花材が陰の気を帯びている時こそ、陽の強い花器を用います。たとえば現代作家の白磁の明るい花器は、枝に虫食い葉を残すような花材を面白く引き立てる力を持っています。
冬枯れの植物たちの姿もまた、いのちの在りようを私たちに伝えてくれる青葛藤(あおつづらふじ)、蠟梅(ろうばい)、笹
白磁筒花入 黒田泰蔵作
古材を用いた板床の上に現代作家の白磁花入を置き、枯れた青葛藤と蠟梅、笹を入れる。空間、花器、花材などすべてが、小林さんのいう陰陽のバランスの上に成り立っている。余分なものを削ぎ落として作られた花。
また、どっしりとした唐物籠や古い竹花入は、自在に枝葉を伸ばす名残の枝ものを力強く受け止めます。これらの花器は入れるのが難しそうな枯れ枝や蔓ものなどを美しく見せてくれる一方で、それらの植物がまたその花器のよさを引き立てており、互いの魅力を際立たせる相乗効果を生み出しているのです。
時代を経て光沢を帯びた唐物籠に、やわらかな枝ぶりの実ものを3種入れた例。深山冬苺の葉っぱを中心にして宿り木と山帰来(さんきらい)を合わせる。上方、左右、前へと伸びる枝に、星のように散らばる実がアクセント。
乾燥した実が残る藤を竹尺八花入に。江戸時代の武家茶人、片桐石州作の花入は漆で補修されており、それが独特の味わいとなっている。
もう一つ、心に留めているのは、花が支配する空間をゆったりと取ること。茶席の花は床の間というスペースが確保されていて掛物や花に目が向きやすいものですが、生活の空間ではそれはなかなか難しいことかもしれません。ならば、せめていつもより花をかざる空間をすっきりとさせてみる。
師走の慌ただしい時だからこそ、暮らしの中にある種の余白が必要になるのではないでしょうか。「花は野にあるように」のごとく、この季節の花々の自然な姿を愛でてみるのです。
和室の床の間風空間に、萩、熊苺の2種を入れた例。花や実を落とした枝と葉のみながら、ラインがのびやかで美しい。ブラインドを下ろした窓が額縁のような背景に。
2023年11月発売!
『谷松屋戸田商店 折々の茶花』
江戸中期から続き、大名茶人・松平不昧公や近代数寄者の出入り道具商となって、現在に至る谷松屋戸田商店。本書には、愛好家垂涎の名品道具をはじめ、現代作家やプリミティブアートなど、戸田商店が扱う道具を自在に使って花を入れた、四季折々の作品が掲載されています。
正式な床の間の花はもちろんのこと、日々の暮らしで楽しむ花も提案。また、花の入れ方、取り合わせ、枝の処理など、自分で花を楽しむ際に役立つコラムも満載。茶の湯を愛し、花を愛でるすべての読者必携の一冊です。
戸田 博、小林 厚著 3960円/世界文化社
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