松岡修造の人生百年時代の“健やかに生きる”を応援する「健康画報」
一年を振り返り、自分の健康を見直すのにふさわしい年末に向け、松岡さんが訪ねたのは、予防医療の最前線に立つ高石官均先生です。病気の予兆を“超早期”に発見するため、医療の現場では今、何が行われているのでしょうか? また、私たち自身ができることとは?オープン間近の慶應義塾大学予防医療センターを高石先生の案内で見学したのち、松岡さんがじっくり伺いました。
前編の記事はこちら>> 連載一覧はこちら>> 東京・麻布台に拡張移転した慶應義塾大学予防医療センターのエントランス。2023年11月6日の開業を前に松岡さんが訪問しました。
表情や仕草から探る心の病の可能性
松岡 今の時代、まず心が健康でなければ、本当の意味での健康にはなれないと思うのですが、先生のセンターではどのように対応されていますか。
高石 傷病別総患者数の年次推移では、日本の5大疾病の中で糖尿病の次に多いのが精神疾患(統合失調症、気分障害、神経症性障害等の合計)です。“No health without mental health”といわれ、メンタルヘルス抜きで健康は語れません。専門ドクターのカウンセリングにかかるのがいちばんですが、その手前の段階にいる人をどのようにして見つけ、手を差し伸べるか。私たちは主に、表情や仕草などの挙動から、病気の可能性を探ります。また、レジリエンス(困難にぶつかっても、しなやかに回復し、乗り越える力=ストレス抵抗力)、つまり“打たれ強さ”を備えたポジティブな生き方を支援していきたいと思っています。
松岡 逆にいうと、心の病は挙動から察せられるケースが多いのですね。
高石 はい。話し方や目が泳いでいないかなど、細かくチェックします。
松岡 表情や仕草であれば、生活をともにしている家族も気づけるのではと思うのですが、いかがでしょう?
高石 おっしゃるように、小さな異変にいち早く気づけるのは、そばにいる家族の強みだと思います。
松岡 家族や友達も予兆に気をつけるようにすれば、病気を予防できる確率も上がりそうですね。
高石 そう思います。
松岡 予防できると考えると、病気への不安や怖さが薄まりますね。僕はジュニア選手の合宿で、「人が不安になるのは予測ができないときだ。相手がこういう球を打ってくると予測できれば、対応できるので不安にはならない」という話をするのですが、健康も似ていますね。予測できれば、食事や運動、睡眠について、こうしていこうという対策が立てられます。
高石 それこそが私たちが目指すところであり、予防医療のスタンダードにしていきたいと考えている姿です。同じような取り組みをしている施設と議論をしながら、日本の予防医療を発展させていきたいです。
5階ラウンジ。優雅で心落ち着く空間をデザインしたのは、五つ星ホテルのレストランなどを手がけるインテリアデザイナーの小坂 竜さん。「先生の白衣もシュッとしてお洒落ですね」と松岡さん。
みんなで考えたい予防医療の工夫や発想
松岡 お話を伺っていると、予防医療の世界には、今までにない発見や工夫があって、とても面白く、やりがいがあるように思えます。
高石 ありがとうございます。私も松岡さんと話していて、天才的なひらめきのアドバイスをいただき、予防医療をもっと興味深く伝えていく方法を学ばせていただきました。予防医療における工夫や発想は、医師でなくても、松岡さんのようにヘルスリテラシーの高いかたはどんどん思いつくのではないかと思います。何かいいアイディアが浮かんだら、ぜひ、教えていただきたいです。実は私は「人間ドック」という名称を変えられないかと、ずっと考えているのです。当センターでは今のところ、「パーソナライズド・ドック」と称していますが、いい案があれば、お知らせください。
松岡 「人間ドック」はきっと日本独自の表現ですよね? 海外では何と呼んでいるのでしょう?
高石 「メディカルチェックアップ」ですが、それだと高齢のかたにはわかりにくい気がして悩んでいます。
松岡 いい呼び方が見つかるといいですね。まもなくこちらでの検査が始まりますが、どんなお気持ちですか。
高石 受診したかたが何か幸せな気持ちになって帰途につける、そういうセンターにしていきたいです。
松岡 自分が信頼するお医者さまに「健康ですね」と太鼓判を押してもらえたら、幸せな気持ちになりますね!最後に、先生ご自身の目標を教えていただけますか。
高石先生ご自身の健康について伺うと、「脂肪肝がありました。お酒はあまり飲まないのですが、就寝前の甘い物がよくないのだと思います。控えなければと思いつつ、今日も月餅を食べてしまいました」と苦笑まじりのお返事。
「健康長寿社会の実現を先導できる人材の育成が最大の目標です」──高石先生高石 慶應義塾大学初代医学部長・病院長である北里柴三郎は、「摂生は本にして治療は末なり」と予防医学の大切さを訴えました。高齢化が進む社会で、持続可能な健康長寿社会の実現を先導できる、予防医療専門医やスタッフを育成することが、最大の目標です。同時に子どもの頃からの仲間との付き合いを、一生大切にしたいですね。
松岡 お仲間を大切に思われているからこそ、先生は予防医療にここまで熱心に取り組めるのですね。全世界の人の健康と、高石先生の益々のご活躍を祈っております。本日はありがとうございました。
修造の健康エール
僕は今まで、人間ドックに対してあまり前向きなイメージを持っていませんでしたが、先生とお話しして変わりました。検査で自分を知ることが病気の予防につながり、健康でいられると考えれば、とても前向きなことですよね? 先生が健康寿命を延ばすうえで克服しなければならないものとして挙げられた3つのフレイル(虚弱)──身体的、心理的、社会的──の話も心に残っています。
身体的フレイルに関して、毎年1万人以上もの高齢者が筋力の低下による転倒や誤嚥で亡くなっていると知ったのはショックでした。一方で感激したのが、「経済的困窮などの社会的フレイルは、我々にはなかなか対応が難しいのですが、何らかの形で取り組んでいきたいと思っています」という言葉です。先生の誠実なお人柄を感じました。
慶應義塾大学予防医療センター
5階エントランス
6階(予防医療メンバーシップ専用フロア)ラウンジ
最新の機器を使用し、大学病院所属の専門医、熟練の検査技師が質の高い検査を実施。プライバシーに配慮された空間で、検査時はコンシェルジュが案内する。
慶應義塾大学予防医療センター住所:東京都港区麻布台1-3-1 麻布台ヒルズ森JPタワー5階
TEL:03(6910)3533
営業時間:月曜~金曜、第2・4・5土曜8時30分~17時
※完全予約制。
高石官均先生(たかいし・ひろまさ)1964年東京都生まれ。1990年慶應義塾大学医学部を卒業。同大学医学部消化器内科大学院で、炎症性腸疾患研究に従事。1999年よりテキサス州立大学、2001年よりバージニア州立大学へ留学。臨床腫瘍学研究に従事。2002年に帰国し、慶應義塾大学病院包括先進医療センター、同大学病院腫瘍センターの設立に尽力。2013年腫瘍センター長に就任。2020年より慶應義塾大学予防医療センター センター長・医学部教授。
松岡修造(まつおか・しゅうぞう)1967年東京都生まれ。1986年にプロテニス選手に。1995年のウィンブルドンでベスト8入りを果たすなど世界で活躍。現在は日本テニス協会理事兼強化本部副本部長としてジュニア選手の育成・強化とテニス界の発展に尽力。テレビ朝日『報道ステーション』、フジテレビ『くいしん坊!万才』などに出演中。『修造日めくり』はシリーズ累計210万部を突破。ライフワークは応援。公式インスタグラム/
@shuzo_dekiru