クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第94回 ガーシュウィン『ピアノ協奏曲』
イラスト/なめきみほ
ガーシュウィンが独学で作曲技法を身につけた成果がここに
今日12月3日は、20世紀アメリカを代表する作曲家、ジョージ・ガーシュウィン(1898~1937)の『ピアノ協奏曲』初演日です。1925年に初演されたこの曲は、前作『ラプソディ・イン・ブルー』のあとに作曲理論を学んだガーシュウィンが、自力でオーケストレーションを行った作品です。
その彼が作曲技法を身につけるために、作曲家たちの門を叩いた逸話が笑えます。ガーシュウィンの巨額な印税収入を知ったストラヴィンスキーは、「私があなたに学ぶほうがよさそうだ」と語り、ラヴェルは、「すでに一流のガーシュウィンが二流のラヴェルになる必要はない」と諭します。親しかったシェーンベルクも、ガーシュウィンの名画コレクションを見て「こんな絵を買えるようになるにはどんなふうに作曲すればよいのか教えてほしい」と逆に頼んだと伝えられます。
まさに“完璧な音楽家”と称されたガーシュウィンならでは。結果的に独学で道を切り開いたガーシュウィンの恐るべき才能と努力に頭が下がります。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。