クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第96回 モーツァルト 『レクイエム』ニ短調 k.626
イラスト/なめきみほ
“神に愛されしもの”アマデウスが最後に残した不滅の名曲
今日12月5日は、クラシック史上最大の天才とうたわれる、ウォルフガング・アマデウス・モーツァルト(1756~91)の命日です。
モーツァルト作品を整理した「ケッヘル番号」の最後を飾る作品にして、未完のまま残された謎の多いこの名曲は、映画『アマデウス』にも描かれているとおり、モーツァルト神話には欠かせない名曲です。
モーツァルトの死後この作品を完成させるために奔走した妻コンスタンツェが、補完の仕事を依頼したのは、モーツァルトの死の直前まで創作に付き添っていた弟子のジュスマイヤーでした。その結果完成したのが、長く決定盤として愛されてきたジュスマイヤーによる補筆完成版です。
しかし、モーツァルト研究が進んだ近年では、1971年に発表されたバイヤーによる補完作品の評価が高く、コンサートで使用される機会が増えています。いずれにしてもモーツァルトの最高傑作の誉れ高いこの曲の価値と、聴くたびに得られる感動には、いささかの影響もないようです。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。