クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第100回 ハチャトゥリアン バレエ『ガイーヌ』
イラスト/なめきみほ
来日経験もあるハチャトゥリアンの代表作
今日12月9日は、アルメニア(旧ソビエト連邦)の作曲家アラム・ハチャトゥリアン(1903~78)のバレエ『ガイーヌ』の初演日です。(1942年)
プロコフィエフ&ショスタコーヴィチとともに「ソ連三大作曲家」とたたえられたハチャトゥリアンの名は、フィギュアスケートの浅田真央選手が2010年のバンクーバーオリンピックで使用した『仮面舞踏会』のワルツによって一躍有名になりました。
そのハチャトゥリアンの代表作といえば、第二次世界大戦時に作曲されたバレエ『ガイーヌ』です。中でも、クルド族の若者がサーベルを持って踊る姿を描いた『剣の舞』は、木琴の激しい連打とサクソフォンのエキゾチックな響きを伴う印象的な音楽です。この作品からは、19世紀末から20世紀初頭に行われたトルコによるアルメニア人大虐殺という暗い歴史が垣間見えます。
ファシズムの誕生と、後のユダヤ人虐殺にもつながった事件を世界が黙殺したことへのアルメニア人の怒りと悲しみが、この激しい音楽に反映されたといわれています。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。