クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第103回 ブラームス『クラリネット五重奏曲』
イラスト/なめきみほ
名手の存在によって誕生した枯淡の名曲の味わい
今日12月12日は、ヨハネス・ブラームス(1833~97)の『クラリネット五重奏曲』初演日です。
木管楽器の一種クラリネットは、音域もおよそ4オクターブと、すべての管楽器の中で最も広いことが特徴です。吹奏楽の世界では、ヴァイオリンの代わりを務めることでも親しまれている1枚リードを代表する楽器です。
名作が生まれる背景には名手あり。晩年のブラームスのそばには、マイニンゲン宮廷管弦楽団の首席クラリネット奏者リヒャルト・ミュールフェルトが存在したのです。その素晴らしい腕前によって「楽団のナイチンゲール」とたたえられたミュールフェルトは、作曲活動から身を引くことを考えていた当時60歳のブラームスの心を動かし、彼が一連のクラリネット作品を生み出すきっかけとなったのです。
その内訳は、「クラリネット三重奏曲」と2曲の「クラリネットソナタ」、そして「クラリネット五重奏曲」の4曲です。そのどれもが、ブラームス晩年の成熟した響きと枯淡の境地が心に染みる名曲中の名曲です。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。