クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第107回 ベートーヴェン 『ピアノソナタ第29番“ハンマークラヴィーア”』
イラスト/なめきみほ
ピアノの進化の過程から生みだされた超難曲
今日12月16日は、ベートーヴェン(1770~1827)の誕生日です。
「クラシックソムリエ検定」で最初に作ったのが「バッハ、ハイドン、モーツァルト、ベートーヴェンの中で、カツラじゃないのは誰でしょう」という問題でした。答えはもちろんベートーヴェン。その理由は、彼は史上初のフリーランスの作曲家で、王侯貴族や教会などに媚びへつらう必要がなかったためです。
自らの音楽に専念した彼の創作活動は、楽器の発展とともにありました。ピアノは更に大きな音を出すためにフレームが強化され、弦の張力も強められて音域も徐々に広がります。その過程の中で作曲された作品がベートーヴェンの『ピアノソナタ第29番“ハンマークラヴィーア”』でした。
当時のピアノの機能と演奏技術を遥かに超えたこの作品についてベートーヴェンは、「50年たっても誰も弾けないだろう」と語ったとか。長大にして超絶技巧を要するこの難曲を、現代のピアニストは普通にレパートリーとしているのですから凄いことです。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。