松本幸四郎夫人・藤間園子さんが案内する「江戸の手仕事」 歌舞伎俳優の夫を支え、きものを着る機会も多い藤間園子さんが江戸時代から続いているものづくりの現場を訪ね、日本の装いの文化と伝統工芸の魅力をお伝えします。
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フォトギャラリーを見る>> タブノキの樹皮で染めた樺色の糸で織った反物(右)と、コブナグサで染めた黄色い糸で織った綾織りの反物(左)。きもの地/黄八丈めゆ工房
第5回 黄八丈
山下芙美子さん(染織家・黄八丈めゆ工房) 都心から約290キロ離れた八丈島にある「黄八丈めゆ工房」の山下芙美子さん(左)と松本幸四郎夫人・藤間園子さん(右)。きもの/山下芙美子(黄八丈めゆ工房) 帯/銀座もとじ 和染 帯揚げ、帯締め/渡敬
3色の糸が織りなす無限の可能性
藤間 今回は、山下芙美子先生が織られたおきものを着させていただきましたが、染料を自然の中から生まれたものを使っていらっしゃるからなのか、きものにそういうエネルギーが宿っている感じがしますね。
山下 それは黄八丈を着ると、元気になれるということですよ。
藤間 まさにおっしゃる通りだと思います。実際に袖を通してわかりましたが、ずっしりしていて目が詰まっていて、ぎゅっと織られている感じが伝わってきました。
山下 しっかり打ち込まれていますからね。着ていただいたからこそわかっていただけたんですよ(笑)。
藤間 芙美子先生は山下家の4代目でいらっしゃいますね。
山下 はい、初代が與惣右衛門、2代目が工房の名称でもあるめゆ、そして3代目が母の八百子で、主に染めをする家でした。代々受け継いできた染料などの作り方を頑なに守ってきました。曽祖父と祖母は染めだけで、母が織りを始めました。私は祖母の仕事を手伝いながら染めを学び、高校卒業後に以前から親交のあった柳 悦孝先生の弟子にしていただいて、柄の組み方などをいろいろと教わりました。「市松織り」や「めがね織り」などを伝授していただき、表現の幅が一気に広がったんです。
藤間 黄八丈は黄色、樺色、黒の3色だけで作られていると伺っていましたが、色の濃淡や織り方でこれほど繊細な表現ができるのは驚きました。可能性は無限ですね。
空から見た八丈島の全景。
黄八丈は八丈島に自生している植物で草木染めした黄色、樺色、黒を基調とした織りのきもの。染めた糸は工房の中庭に干される。
黄色を染める原料となるコブナグサの苗。5月頃に畑に植え、秋に50センチほどに伸び、刈り取ったものを煮出して染料を作る。
山下 そうなんです。いくらでも組み合わせることができますからね。黄八丈は縞と格子のイメージが強いために私の作品をご覧になったときに「これは黄八丈なんですか?」って聞かれることがあります。
藤間 先生がそうした既存の黄八丈ではないものをお作りになろうと思われたきっかけはあるんでしょうか。
山下 「黄八丈は普段着だ」といわれたことが悔しかったのと、黄八丈に絣の技術がないから挑んでみました。