「経糸と緯糸の組み合わせを変えることで色味に変化が生まれて、深みが出るのが楽しいです」と実際に織り上げた生地を見せながら説明する山下芙美子さん。
藤間 モネの生地も3色ですよね。
山下 3色だからこそいろんな色を生み出せるし、失敗もないんです。
藤間 色の組み合わせのアイディアは常に湧き起こるのですか?
山下 実際に織ってみます。今までは経糸は樺色だけとか、黄色だけとか単色にしていたんですが、この頃、少しずつ変わってきました。黄色と白を組んだり、樺色と薄い樺色を組んだり。経糸を違う色で組み合わせることで、緯糸を入れたときに変化が生まれるんです。色に深みが出るので、今はそれにハマっています。
藤間 めゆ工房が特別なのはそうしたこだわりがおありだからですね。
湯通しした生地は工房の中庭で伸子張りをして天日干し。
「湯通し」は工房で必須の作業。お湯にしばらくつけて糊をふやかしてから、斜めにした板の上に生地を置いて、たわしで軽くこすりながら、残っている糊をきれいに落とす。
山下 糸の染めも、きれいに染まらないときはやめるんですよ。
藤間 それは糸が違うからですか?
山下 糸は「新小石丸」という同じじ品種の絹糸です。原因は黄色の染料であるコブナグサの出来が悪かったからで、その後3年間は染めることなく、ねかしておいた糸を織ってしのぎました。また、黒の生地は経年変化で羊羹色になってくるんです。先ほどお召しいただいた訪問着も真っ黒ではなかったでしょ? 色の変化も楽しめますよ。柄のめがね織りは面白く変化をつけて織りました。
地機で生地を織っているご主人の山下 誉さん。
経糸を整える「整経」された4反分の糸。黄八丈の黒の糸は、糸そのものがうっすらと光を放っているような光沢があり、不思議な魅力がある。
藤間 そうした先生の技術はどのようにして継承されていくのですか?
山下 息子3人(崇さん、雄さん、啓さん)のうち次男が染めも織りもやっています。次男の嫁(清子さん)も看護師を辞めて織っていて、高機(たかばた)だけでなく、夫(誉さん)から難しい地機(じばた)を教わるなどして頑張っています。嫁は嫁なりの黄八丈を作ればいいと思うので、私は自分の織り方を記した見本帳は残しません。さらに卒業後に工房に入る予定の高校生の孫がいるので、初心者で真っさらだから教えがいがありますし、期待しています。
藤間 次の世代に、また新たな作風が生まれるかもしれませんね。