クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第113回 ベートーヴェン 『交響曲第6番“田園”』
イラスト/なめきみほ
自然描写によって標題音楽の先駆けとなった人気曲
今日12月22日は、ベートーヴェン(1770~1827)の『交響曲第5番』と『第6番』の初演日です。(1808年)
ウィーンのアン・デア・ウィーン劇場で、ベートーヴェン自身の指揮によって行われたこの日のコンサートは、『交響曲第5番』&『第6番』のほかに、『ピアノ協奏曲第4番』、『合唱幻想曲』など、ベートーヴェン作品が7曲もならぶ長大かつ豪華な公演でした。
ほぼ同時期に作曲された交響曲第5番と第6番は、前者が「人間」を描いて男性的であるのに対し、後者には「自然」が描かれて女性的であるとされるなど、対象的な面を持つ双子のような関係の作品だといわれています。
ベートーヴェンがこよなく愛したウィーン郊外の町ハイリゲンシュタットで作曲された第6番は、ベートーヴェンが残した9曲の交響曲の中で、みずから“田園”と名づけた唯一の作品です。5つの楽章にはすべて表題がつけられ、後に続くベルリオーズやリストによる「標題音楽」の先駆けとなった作品としても高く評価される名曲です。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。