新世代の鍼灸師に訊く 第1回(1) 女性のライフステージの中で更年期前後は心身のトラブルを起こしやすくなる時期です。お医者さんにみてもらうほどの不調ではないけれどQOL(生活の質)が損なわれる、病院にかかっていても症状が慢性化しそれほど改善しないといったことも多々あります。こんなときに頼りになるのが東洋医学です。気軽にかかれる鍼灸院は「未病を予防する」ことから「病気を改善する」ことまで守備範囲が広く、身近な健康アドバイザーとしてもっと活用したい医療施設の一つです。
更年期から起こりやすいトラブルの予防法・解決法「自律神経の乱れ」
“体の声”を聞き、有効な手足のツボを刺激して首すじと腹部の緊張を緩める金井友佑先生(木更津杏林堂)
木更津杏林堂 副院長 金井友佑(かない・ゆうすけ)先生
1987年、千葉県生まれ。鳥取大学医学部生命科学科卒業。筑波大学大学院人間総合科学研究科フロンティア医科学修士課程修了。鍼灸師の資格を取得後、神経内科研修、クリニック勤務などを経て現職。鍼灸の未来を切り拓くべく、学術活動やネットワークづくりに精力的に取り組む。予防鍼灸研究会会長。WEBメディア「ハリトヒト。」代表。
パーキンソン病の臨床知見を自律神経の治療にも応用する
木更津杏林堂副院長の金井友佑先生は1911年から続く鍼灸院の4代目。大学で生命科学を学び、大学院で基礎研究に励んだ時期もあります。「鍼灸治療のメカニズムや効果を科学的に証明したいと思ってきました。それで臨床だけでなく研究にも重点を置いています」。伝統医学を重んじつつ革新を求める姿勢が“新世代の鍼灸師”と注目される所以です。
脈診(写真上)や腹診(写真下)で体質、体や臓器の状態などを診察。鍼灸治療を行うと脈や腹部の状態が変わってくることから治療効果の判定にも活用している。
腹診
金井先生は、数多ある疾患の中でも「パーキンソン病」の治療を得意とします。この病気は「運動症状」と「非運動症状」に大別され、いずれの症状にも鍼灸治療は高い効果があるといいます。さらに近年、金井先生が注力するのが非運動症状の一種である自律神経系の症状(便秘、排尿障害、低血圧・起立性低血圧、多汗など)の治療です。
鍼で皮膚にある知覚神経が刺激され、その情報が自律神経系の中枢である延髄(視床下部)に伝達されて自律神経が調節されることで緊張が緩むと考えられている。
「最新の医学研究ではパーキンソン病と診断される10~20年前から便秘をはじめ自律神経系の異常が先行して現れることがわかってきました。自律神経を整えることは、パーキンソン病の原因にアプローチする本治法(病気のもととなる体質を改善する根本的な治療)につながるのではないかという期待があり、治療の模索と研究を重ねているところです」
もちろん自律神経系の症状はパーキンソン病特有のものではありません。金井先生はパーキンソン病の臨床経験と学術活動で得た知見を生かし、多くの患者さんたちの自律神経の乱れにも鍼灸治療を施しています。
父・正博先生(写真中央)はパーキンソン病の鍼灸治療の先駆者。「臨床だけでなく“鍼灸愛”と鍼灸業 界を変革していくスピリットも受け継ぎました」