「理想の食べ方」を計算した研究からわかった 日本の高齢女性の食習慣は健康的です!
東京大学名誉教授
佐々木 敏先生ささき・さとし 京都大学工学部、大阪大学医学部卒業。大阪大学大学院、ルーベン大学大学院博士課程修了。医師、医学博士。栄養疫学の第一人者。科学的根拠に基づく栄養学(EBN)をいち早く提唱し「日本人の食事摂取基準」(厚生労働省)の策定では中心的役割を担う。著書に『佐々木敏の栄養データはこう読む!』『佐々木敏のデータ栄養学のすすめ』(ともに女子栄養大学出版部刊)。
食事に対する科学的な知識を知ることこそ健康維持の秘訣
健康に関心が高い人ほど体によい食べ物を求める傾向があります。しかし、健康を維持し長寿を保つには食べ物(栄養素)より食事・食習慣(食べ方)のほうが大事だと佐々木敏先生は示唆します。 一方、日本では食事について科学的にアドバイスできる専門家が十分に育っていないといいます。
「そのため、適切ではない食と健康の情報が世の中に流布し、誤った情報を信じて健康を害する問題もあちこちで起こっているように思います。自分の健康を守るために誰もが最も知っておかなければならないのは食事に対する正しい知識なのです」。
正しい知識──すなわちエビデンス(科学的根拠)に基づいた食事の知識を得るには「栄養疫学」の助けが必要です。この学問は栄養分野におけるデータを測定・収集・整理・分析することでその実態を明らかにし、エビデンスを提供する役割を担っています。
「そして、栄養疫学で明らかになったエビデンスを活用し、健康的な食事をより確実に実践しようとする考え方がEBN(科学的根拠に基づく栄養学)です」。
さて、本連載で最初に取り上げるのは「中高年女性の食習慣」です。健康を維持するうえで体に必要な食品が適正にとれているのかどうか気になります。この問いの答えが下に示したデータです。
「研究結果のグラフを見ると、50~69歳の女性群はほとんどの食品で『現在(実際の摂取量)』と『最適化後(食事摂取基準に示されている量を過不足なく摂取できる摂取量)』の差がなく、現在の摂取量が最適(理想的)であることがわかりました。これは日本の中高年女性が健康的な食習慣を持っていることを示しています。
実はこの研究のもとになった貴重な食事調査は20年前に実施されています。この世代の女性は現在、70~89歳になっていて、健康的な食習慣を持っていたことが長寿に貢献していると推測されます」。
今月の「食行動」に生かせる注目データ
『行動栄養学とはなにか?』佐々木 敏 著(女子栄養大学出版部刊)P.25を参考に作成
●研究内容
【目的】「日本人の食事摂取基準」(2010年版)で摂取すべき量が示されていて、かつ食品成分表におおよそどの食品も掲載されていて摂取量も計算できた28種類の栄養素を過不足なく摂取するには各食品群をどのくらい食べかえれば(増減すれば)よいのかを算出。
【方法】日本人成人を対象とした16日間の食事調査をもとに線形計画法を使って計算。
●年代別 食べ方の改善点
【30~49歳女性】※食事調査時点での年齢と改善点
・乳製品を普通脂肪から低脂肪にすべて替える。
・油脂類の摂取をやめる。
・食塩添加調味料を7割近く減らす。
・精製穀類を130g減らし、それを全粒穀類に替える。
【50~69歳女性】 ※食事調査時点での年齢と改善点
・全粒穀類を増やす。
・食塩添加調味料を減らす。
将来の健康不安からいえば食習慣(食べ方)を大胆に改善しなければならないのは30~49歳の女性群です。この世代の女性は現在、50~69歳になっています。線形計画法を使うと、現実の食習慣を考慮したうえで具体的な食品群摂取量の改善点を示せるといい、その改善点を食事調査時点での世代別に記載しました。あなたの食習慣を見直す際のご参考に。
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