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Q&Aで紐解く「龍とは一体何か」謎多き日本の“龍文化”の実像とその不思議

2023.12.21

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〔特集〕開運招福社寺と伝説を巡る 龍神絶景を行く 開運・招福につながる、龍ゆかりの寺社や聖地巡りが今ブームです。中国由来の霊獣、“龍”とは、日本人にとって、一体何なのか。龍神パワーが獲得できる“龍脈”や“龍穴”はどこにあるのか。そもそも日本の龍神信仰とは何なのか。2024年の干支、辰(龍)にゆかりの聖地を訪ね、謎多き日本の“龍文化”の実像とその不思議を紐解き、併せて2024年の開運を祈願します。前回の記事はこちら>>

・特集「龍神絶景を行く」の記事一覧はこちら>>

【徹底研究】龍とは一体何か
“龍”の博物学Q&A

干支の中で唯一、架空の生き物であり、伝説上の存在である「龍」。それにもかかわらず日本人が龍を好み、信仰するのはなぜでしょうか。今回取材にご協力いただいた3名の先生の回答や参考文献をもとに、起源から日本で吉祥のシンボルになった理由までを紐解きます。


〔答えてくださったかた〕
●御堂龍児(地理風水師)
●平藤喜久子(神話学者)
●津田章彦(妙心寺 僧侶)

信仰の対象から国の権威まで進化した中国の龍

龍の発祥は中国で、現代にいたるまで中国文化の象徴とされています。中国において最初に龍らしきものが現れたのは新石器時代(紀元前6000年~)で、陶器の文様や像らしきものが見つかっています。青銅器時代(紀元前1600年~)に入ると、祭礼用の青銅器に描かれるようになりました。これは、人々が、自然が持つ巨大なエネルギーを、人間にはない動物の神秘的な能力と考えたからだろうとされています。いくつかの動物たちのパワーをさまざまに組み合わせることで空想的な生き物が生まれ、その一つが龍となったのです。

空想上の存在であるため、その頃の龍の姿はさまざま。今、多くの人が思い描く姿になったのは、龍が中国皇帝の権威の象徴とみなされるようになった漢代(紀元前206年~)になってからです。後漢の思想家であった王符による『九似説』には、「角は鹿、頭は駱駝(らくだ)、腹は蜃(みずち/蜃気楼を起こす大きなハマグリ)、眼は鬼(兎の説も)、耳は牛、項(うなじ)は蛇、鱗は鯉、爪は鷹、手は虎に似ている」と記されています。

さらに、口の横には長い髭があり、鱗は81枚あって喉の下の1枚だけが逆さに生えており、手には宝珠を持っているとあります。さらに、宋の羅願曾による『三停説』にある「龍は、首、胴、尾の3つの部分が等分」と結びつき、「三停九似説」が龍の姿として伝えられるようになりました。

中国、インドのイメージが融合して確立された日本の龍

日本では、すでに弥生時代に中国の龍のイメージが持ち込まれていたとも考えられています。弥生土器に龍のような図案が描かれたものが見つかっています。倭鏡の装飾にも見られます。6世紀後半の古墳時代になると、古墳の壁画に龍の姿が描かれるようになりました。有名なのは奈良県にある高松塚古墳で、被葬者を守る四神(東西南北の四方を守る神)の一つとして青龍が描かれています。

奈良県、高松塚古墳の東壁面中央「青龍図部分」写真/毎日新聞社〈アフロ〉

しかし、現在ある日本の龍神信仰につながるのは仏教の伝来による影響が大きいといえるでしょう。仏教で信仰され、仏法の守護神とされている龍は、実はインドの神話に登場する「ナーガ」です。

インド、ラジャラニ寺院のナーガ 写真/ePhotocorp〈iStock〉

蛇の精霊の一種とされ、モデルはコブラ。神格化されて聖獣とされ、半人半蛇、四肢や髭、角もなく、7つの頭を持つ姿で描かれることもあり、中国の龍とは異なります。

それが、後漢時代に中国に仏教が伝来し翻訳された際に、ナーガが「龍」と訳されたことから中国の龍と同じものと考えられるようになりました。『法華経』に釈迦の説法を聞いた八尊の龍王(八大龍王)が登場しますが、龍王の名称も中国で生まれたものだといわれています。

中国の龍にしても、インドのナーガにしても共通するのは、蛇がもとになっており、雨を恵む水の神であったことです。この性質が、もともと日本の自然信仰にあった水神や蛇神と結びつき、独自の龍神信仰が生まれました。古くから日本では、川や池、沼など水のあるところには主(ぬし)がいると考え、水を支配する神の化身や神の使いが蛇だと考えられてきました。

やがて、龍神は雨を降らす神から稲作の豊穣神や天候を司る神として信仰されていくようになります。五穀豊穣をもたらすことから、金運や仕事運を上げる御利益にもつながりました。加えて、龍は水中に棲み、天に昇るイメージから運気を上げる縁起のよいイメージが出来上がっていったのです。

龍神様と出会うには、神社仏閣を訪ねることはもちろん、自然の中に出かけることもおすすめします。龍は、古来、自然のエネルギーや気そのものであると考えられてきたからです。風水では、その気が大地の中を流れ、盛り上がった山脈を「龍脈」、気が留まり表に顔を出しているポイントを「龍穴」と呼びます。どちらにも龍神様はいらっしゃるとされています。

今回、全国にある龍脈や龍穴にある絶景ポイントや龍神伝説とゆかりの神社仏閣を厳選してご紹介しています。その中で気になる場所を訪ねて、ぜひ辰年に龍神様のお力を感じて、実り多き一年をお過ごしください。

【参考文献】 『龍神パワー探訪』(戸部民夫著・ビイング・ネット・プレス) 『龍の棲む日本』(黒田日出男著・岩波新書) 
『龍の起源』(荒川 紘著・角川ソフィア文庫) 『龍と人の文化史百科』(池上正治著・原書房)

Q. 龍神信仰とは、どのような信仰でしょうか?

A. 今の形の神社や寺が建立される前から、あちこちの土地にいた自然神として手を合わせていたのが龍神様。今のように電気も灯りもない時代にあっては明日の天気さえ大きな問題でしたから。自然を敬う信仰です。なぜか奈良地方では龍神様を祀る祠や神社が多いのですが、高龗神(たかおがみ)、闇龗神(くらおがみ)として龍神様をお祀りしています。山での雨や水を司る神が高龗神で、谷での雨や水を司る神が闇龗神です。(御堂)

Q. よく五色の龍が登場しますが、どうして五色なのでしょうか?

A. 風水の五行である、木・火・土・金・水にちなんだ色です。それぞれ説明すると、木にあたるのが青龍。万物を成長させ、発展させる力が強い。火にあたるのが赤龍。大地の力そのままであり、火山などと結びつきがあります。土にあたるのが金龍。自然界の調和を司っています。金にあたるのが白龍。自然界と人との間を取り持ち、人と自然界を通した調和を司っています。水にあたるのが黒龍。水には知恵やアイディア、それから縁という意味があるため、才能開花を手伝い、金運を上げると考えられています。(御堂)

Q. 龍が吉祥の印とされるのは、なぜでしょうか?

A. 昇り龍や雲龍など、よいイメージで描かれてきたからではないでしょうか。古代中国では、皇帝を守るシンボルでもあることや、立身出世と結びついていることも関係しているのかもしれません。昔から四方の海をそれぞれの龍が守っていると考えられてきたのも影響している気がします。地域や人々の願いが時代によって変化していくことで、同じ吉祥の意味でも多様化している感じを受けます。(平藤)

Q. 龍の爪には、3~5本がありますが、その違いは?

A. 中国の龍は5本爪で、朝鮮に渡って4本爪になり、日本に伝来して3本爪になったようです。(津田)

Q. 龍神様に出会えるタイミングや、龍雲が見やすい場所、時間はありますか?

A. お姿を見せる一番のタイミングは、満月が煌々と輝く夜でしょう。龍神様は水と不即不離の関係にあるので、やはり満月の夜にお力を出されるのでしょうか。ただ、夜に山の中に入っていくことは難しいですね。龍神様の影ともいえる龍雲は、気が上がっている午前中の方が見やすいかもしれません。いずれにしても、見える見えないではなく、そういう場所の風を感じてみてください。リラックスした気分で出かけ、景色を愛で、できるなら川や水に触れたり、その土地の空気を感じているうちに、気配を感じて啓示を受け取れるかもしれません。(御堂)

Q. よい龍(吉祥)とは反対に悪い龍もいるのでしょうか?

A. 西洋では、龍はドラゴンと呼ばれ、退治される存在、悪龍として知られています。日本では、九頭龍伝説にあるように、悪い龍が改心して守り神、善龍になった話があります。(平藤)

Q. 龍神様に読むお経や真言はあるのでしょうか?

東京都、高尾山薬王院の八大龍王の像 写真/玉置じん〈アフロ〉

A. 八大龍王の名前を順番に唱えるというお経があります。

「難陀竜王(なんだーりゅうおう) 跋難陀(ばつなんだー)竜王 娑羯羅(しゃーかーらー)竜王 和修吉(わーしゅうきつ)竜王 徳叉迦(とくしゃか)竜王 阿那婆達多(あーなばだったー)竜王 摩那斯(まーなーしー)竜王 優鉢羅(うーはーらー)竜王」というものです。

八大龍王とは、法華経に登場する龍族の八王で、仏法の守護神とされています。(津田)

Q. 龍脈、龍穴とは一体何なのでしょうか?

A. 大きな生命体である地球の中から湧き出した力=気の流れが大地を巡り、それに沿って地面が盛り上がった山脈が「龍脈」です。血管や葉脈のように、東西南北に曲がりくねっている様が龍が這って進む姿のようなので、龍脈と呼ばれます。なかでも日本列島では、富士山が大地の気の生まれる大元であり、祖山といわれます。龍穴は、龍脈となって流れ出た大地の気の流れが留まり、その霊力で満ちる場所のこと。人の顔にたとえると、鼻の下の溝ができている「人中」というツボにあたるところが龍穴で、鼻梁が龍脈となります。(御堂)

(次回へ続く。この特集の一覧>>

この記事の掲載号

『家庭画報』2024年01月号

家庭画報 2024年01月号

イラスト/はやしみこ 取材・文/小倉理加

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