夢への挑戦が許された僕たちの時代
談=わたせせいぞう
2024年、漫画家・イラストレーターの活動を始めてから50周年を迎えます。損害保険会社で働きながら、漫画家と会社員の二足のわらじ生活をスタート。漫画雑誌に連載していた「ハートカクテル」が人気を博したのを機に、40歳になった1985年独立。以来、今も毎日、漫画やイラストを描き続けています。
誰もが自分の意見を口に出せる、シンプルな社会だった70年代、80年代。ハイカルチャーもポップカルチャーもありましたが、それぞれ意外に踏ん張りも効き、大勢に流されず多様な意見が存在していました。なんといっても、僕たちの時代は“夢が摑めるかもしれない時代”でした。
すでに偏差値も導入されていましたが、多少無謀でも、夢への挑戦が許される世の中。皆元気でした。僕が40歳で、画業一筋の道を選ぶことができたのは時代の力もあったのかもしれません。
生まれた時から情報が溢れる社会に生きる、Z世代といわれる20代の若者たちが、僕たちの時代のカルチャーに惹かれるというのはなんとなくわかる気がします。その頃のカルチャーや作品に“余裕”や“間”を感じるのではないでしょうか。
形のイメージでいうと、当時の車は四角ではなくて丸。手作りなんです。職人さんが板金して叩いて丸みを作り出していく。バスタブもそうですね。人間の手の偉大さがあった時代、ともいえます。
ロサンゼルス個展で飾られた「汐風の回廊」(1998年)© SEIZO WATASE / APPLE FARM INC.
だから僕は今も原画展を大切にしています。現在、仕事はパソコンの中で描いて情報として送るわけで、もちろん便利なのですが、やはり手で塗ることで伝わる温かみが、確かにある。原画展では手で塗る作品も制作して、両方展示しているんです。パソコン制作の作品に比べると微妙にムラがあったりもするのですが、でもそれがいい。
“温かさを大事にする”という想いは、作品を描き始めた当初から今も変わりません。昔、テレビやラジオで使われていた真空管のイメージわかりますか? 触るとほのかに温かいんです。真空管のように瞬間的ではない温かさを伝えたい、そして昨日より今日、ベストな作品を描けるようにという想いで、毎日描き続けています。(談)
わたせさんの作品で体感する春夏秋冬
「ハートフル日和」(2022年)© SEIZO WATASE / APPLE FARM INC.
四季折々の色みから深みと優しさが伝わるわたせさんの作品だが、大切にしているのは色彩イメージ。「最初にストーリーを考える時点で、どの色のイメージを残したいか、意識しながら進めていきます」。
もう一つ、注力しているのは風が感じられる作品に仕上げること。「海辺の街で育ったからでしょうか、風の中、坂道を上ったり走り下りたりした日々は、自分にとって幸せの象徴なんですね。右から左に吹き抜ける風を作品に感じていただければ嬉しいです」。
「明日のEveと」(1992年)© SEIZO WATASE / APPLE FARM INC.
ニューヨークでも展示された「幸せへのOne Way」(1993年)© SEIZO WATASE / APPLE FARM INC.
わたせせいぞう
Photo by Mariko Tagashira
1945年、兵庫県生まれ。漫画家、イラストレーター。生後間もなく小倉市(現・北九州市)へ。高校卒業後、早稲田大学入学を機に上京。40歳で画業一筋の生活に。1996年ニューヨーク、1998年ロサンゼルスなどでも個展を開催。2024年の画業50周年を記念したイベントを企画中。
★わたせせいぞうギャラリー www.apple-farm.co.jp (次回へ続く。)
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