クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
連載一覧はこちら>>
第125回 ドビュッシー オペラ『ペレアスとメリザンド』
イラスト/なめきみほ
オペラ以上にオペラ的な誕生秘話がここに
今日1月3日は、スコットランド出身のオペラ歌手メアリー・ガーデン(1874~1967)の命日です。
彼女の特質は、優れた歌唱力とともに“オペラ界のサラ・ベルナール”と呼ばれた演技力にあったようです。その彼女の功績の1つが、ドビュッシー(1862~1918)のオペラ『ペレアスとメリザンド』の初演において、メリザンド役を務めたことでしょう。
高名な象徴派の詩人モーリス・メーテルリンク(1862~1949)の同名の戯曲を台本とした『ペレアスとメリザンド』は、ドビュッシーが完成させた唯一のオペラにして、後に続くシェーンベルクやヤナーチェク&バルトークにも影響を与えた画期的な作品と評されます。
1902年4月30日にパリのオペラ・コミック座で行われた初演に際しては、原作者メーテルリンクが歌手で愛人のジョルジュット・ルブランをメリザンド役に推薦したにもかかわらず、ドビュッシーがメアリー・ガーデンを起用したことで2人の関係が悪化。その後もドロドロの遺恨劇が繰り広げられたのですからたまりません。これはまさにオペラ以上にオペラ的ではありますね。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。