クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第127回 ショパン『練習曲集』
イラスト/なめきみほ
ピアノ演奏史に燦然と輝く名盤とは
今日1月5日は、現代最高のピアニストの1人、マウリツィオ・ポリーニ(1942~)の誕生日です。
イタリア・ミラノ出身のポリーニは、1960年に18歳で挑んだ第6回「ショパン国際ピアノコンクール」において、審査員全員一致による優勝を果たします。これはMLBにおいて大谷翔平選手が満票でMVPを獲得した偉業にも匹敵するような快挙です。当時、審査委員長を務めていた大ピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタイン(1887~1982)が、「今ここにいる我々審査員の誰よりもうまい」とコメントしたことも語り草。一夜にしてスーパースターの座を獲得したのです。
しかしその後10年近く表舞台から姿を消し、さらなる研鑽を積んだところがポリーニの賢さです。再び表舞台に登場した直後の1972年に発表されたアルバム『ショパン:12の練習曲 作品10&25』のすばらしさは空前絶後。世界中のピアノファンに大きな衝撃を与えるとともに、ピアニスト全体の演奏技術向上に大きく貢献した記念碑的なアルバムとなったのです。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。