クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第130回 フォーレ 歌曲『月の光』
イラスト/なめきみほ
“呪われた詩人”が残した異次元の名作
今日1月8日は、フランスの詩人ヴェルレーヌ(1844~96)の命日です。
同時代のフランスの作曲家たちを魅了し、彼らが歌曲を作曲する原動力となったヴェルレーヌ。その人生は、酒と女と神への祈りに、反逆と背徳。そして、そのすべてに対する悔恨をかかえた破滅的なものであったと伝えられます。
“呪われた詩人”と呼ばれたにもかかわらず、残された500編余りの詩の美しさは破格。「天才の一面は、あきらかに醜聞を起こし得る才能である」という芥川龍之介の言葉は、ヴェルレーヌのためにあるように思えます。
そのヴェルレーヌの代表作が、詩集『艶なる宴』の中の最初の詩『月の光』です。この詩に魅了されたドビュッシーは、2つの歌曲『月の光』の他に、有名なピアノ曲『月の光』を残しています。そして、ドビュッシーとともに「フランス歌曲」の価値を極限にまで高めたフォーレ(1845~1924)が最初に手がけたヴェルレーヌ作品も『月の光』なのです。
1つの詩からこれだけの音楽が生まれたことこそが、“呪われた詩人”の真骨頂といえそうです。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。