クラシックソムリエが語る「名曲物語365」 難しいイメージのあるクラシック音楽も、作品に秘められた思いやエピソードを知ればぐっと身近な存在に。人生を豊かに彩る音楽の世界を、クラシックソムリエの田中 泰さんが案内します。記事の最後では楽曲を試聴することができます。
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第138回 ブラームス『ピアノ協奏曲第2番』
イラスト/なめきみほ
孫娘の名は、ソニア・トスカニーニ・ホロヴィッツ
今日1月16日は、イタリア生まれの指揮者アルトゥーロ・トスカニーニ(1867~1957)の命日です。
ミラノ・スカラ座やニューヨーク・メトロポリタン歌劇場などの指揮者を歴任したトスカニーニは、ドイツのフルトヴェングラー(1886~1954)と並び称される巨匠です。
その娘婿が、20世紀最大のピアニストの1人、ウラディミール・ホロヴィッツ(1903~89)であったことはもはや伝説。この強烈極まりない2人の共演によるブラームスの『ピアノ協奏曲第2番』とチャイコフスキーの『ピアノ協奏曲第1番』は、永遠不滅の名盤です。
2人に関する逸話においては、ホロヴィッツの娘ソニアのためにピアノ教師を雇った際の話が笑えます。何も知らずにソニアの家を訪れたピアノ教師がドアを開けると、そこには笑顔のホロヴィッツが立っていて、奥のレッスン室には、強面のトスカニーニが溺愛する孫娘のレッスンを見守るために待ち構えていたというのですから怖いです。
かわいそうなピアノ教師は慌てふためいて逃げ出したのだとか。何はともあれ2人が残した鬼気迫る名演に拍手喝采。
田中 泰/Yasushi Tanaka
一般財団法人日本クラシックソムリエ協会代表理事。ラジオや飛行機の機内チャンネルのほか、さまざまなメディアでの執筆や講演を通してクラシック音楽の魅力を発信している。